6GでNTTドコモが目指す「人間拡張」

確かに6Gの性能は高いが、それだけの性能を現在のスマホがフルに生かせるとは考えにくい。有効活用にはデバイスやサービス側の進化も求められる。その利用用途としてNTTドコモが研究を進めているのが「人間拡張」である。

人間拡張とは、テクノロジーの力で人間の身体や感覚などの能力を拡張する技術。6Gではネットワークの通信速度が人間の神経の反応速度を超えることから、NTTドコモは6Gで機械ではなく人間自体をネットワークに直接接続し、クラウドなどのコンピューターパワーを活用することで能力を拡張しようと考えているわけだ。

NTTドコモは22年1月17日、富士通、FCNT(旧富士通コネクテッドテクノロジーズ)、センシング技術を持つスタートアップH2L(東京・港)などとの協力により、「人間拡張基盤」を開発したことを発表した。これは体の動きのデータを専用の機器で取得し、ネットワークを通じてその基盤に送ることにより、ロボット、あるいは別の人にその動きを直接伝えてコントロールする仕組みだ。

「docomo Open House'22」で披露された「人間拡張基盤」。ネットワークを通じてさまざまなセンサーで取得した人の動きをロボットやアバター(分身)、あるいはほかの人などに伝達する仕組みだ

NTTドコモは、22年1月17日からオンラインで開催した同社の研究成果を披露するイベント「docomo Open House'22」で、人の手の動きを人体拡張基盤に送ってロボットに伝えて動かすだけでなく、電気による刺激を用いて別の人の手を動かすデモを披露した。NTTドコモでは今後人間拡張基盤のような技術が進化することで、将来的には6Gのネットワークを通じテレパシーやテレキネシス(念力)のようなことも実現できると見ているようだ。

人間拡張基盤を使ったデモの1つ。右側の人に装着したセンサーで取得した手の動きを、ネットワークを通じて左の人に装着したデバイスに送り、電気による刺激で同じ手の動きを再現していた

ここ最近、仮想空間でさまざまな活動をする「メタバース」が大きな注目を浴びている。だが、人体拡張基盤の取り組みなどを見ると、6Gでは仮想空間を超えてネットワークが人間自体を進化させる、SFのような世界がやってくることになるかもしれない。

6Gの商用化タイミングは30年ごろと予想されるが、前倒しの可能性もある。

佐野正弘
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。