化石を巡る倫理的な課題

この琥珀化石は、知られている限り最も古い非海生のカニかもしれないが、思い切って海から出たカニはこれが最初でも最後でもなかった可能性が高い。

中国雲南省にあるロンイン琥珀博物館の学芸員シャオ・ジア氏(中央)。琥珀に閉じ込められたカニを学生に見せている(PHOTOGRAPH BY XIAO JIA, LONGYIN AMBER MUSEUM)

「カニ下目は少なくとも6回、淡水域を主とした生活に適応し、少なくとも12回、陸地と汽水域を含む生息地に適応したと私たちは考えています」とルケ氏は話す。

そして、海から離れるときに驚くべき変化を経験した生物はカニだけではない。例えば、米カリフォルニア州で海と川を行き来していたニジマスが、ミシガン湖に導入されて120年足らずで遺伝子的に淡水に適応を遂げていたことが、18年に学術誌「Molecular Ecology」に発表されている。また、アマゾンカワイルカなど、淡水域に生息するクジラやイルカもいる。

海水から淡水への適応を可能にする一般的な方法は存在しないため、このような進化が繰り返されてきたという事実は注目に値する。今回、変化の真っただ中にいたと思われるクレタプサラが発見されたことで、その神秘的なプロセスをのぞき見る新たな窓が開かれた。

しかし、たとえ古代の琥珀が過去への窓を開いたとしても、科学者は琥珀化石にまつわる倫理的な課題に取り組まなければならない。琥珀の取引を巡るジレンマに加えて、この化石を所蔵する龍隠琥珀博物館がミャンマーから遠く離れていることも懸念事項だ。古生物学者の間では、国の自然史遺産として化石を本国へ返還する機運が高まっている。

琥珀化石の輸出について定めたミャンマーの法律は互いに矛盾していると研究者たちは指摘している。ミャンマー、マンダレー大学のジン・マウン・マウン・テイン氏とオーストラリア、タスマニア大学のキン・ザウ氏は21年6月4日付で学術誌「Nature Ecology and Evolution」に掲載された書簡で、重要な化石が世界中に散らばるのを防ぐため、古生物学者は琥珀に関する重要な発見をミャンマーの政府または科学当局に報告すべきだと提言している。

「そうすることで、(ミャンマー)国内の科学研究の水準が向上するのみならず、ミャンマーの人々が自国の自然遺産を国外に奪われることなく、その重要性と科学的価値をより深く理解できるようになる」と書簡には記されている。

(文 RILEY BLACK、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年10月22日付]

ナショジオメルマガ