カチン州からは、専門家と愛好家の心をとらえる琥珀化石が産出する。ルケ氏は17年より前に採取された琥珀化石に関する研究を発表することで、カチン州で起きている紛争への関心が高まることを期待している。

淡水域や陸上で生活できるカニもいれば、写真のマングローブツリークラブ(Aratus pisonii)のように、木登りが得意なカニもいる。1億年前に樹脂に閉じ込められた1匹のカニも、このように暮らしていたのかもしれない(PHOTOGRAPH BY JAVIER LUQUE, HARVARD UNIVERSITY)

簡単ではなかったカニの海離れ

琥珀の状態などの手掛かりは、中にいる小さなカニと同じくらい示唆に富む。成体と幼生のどちらかはわかっていないが、カニは完全な姿で保存されており、樹液に閉じ込められた場所で本当に生きていたことを示している。琥珀の中に砂粒がないことや、樹液がカニの上を流れたことも、汽水域や淡水域といった海辺から離れた環境で化石化した可能性が高いことを示唆している。

海から離れることは、カニにとって大きな一歩だった。汽水域や淡水域への適応は、ただスイッチを切り替えるような単純なものではない。呼吸から水分量の調節、乾燥の防止まで、さまざまな方法を変えなければならないとルケ氏は説明する。

ブラッケン・グリサム氏によれば、「最大の障壁は浸透圧調節に関わる変化」だという。つまり、体内の水分と塩分などのバランスを管理する機能だ。また、新たな環境に進出すれば、新たな捕食者に目新しいごちそうとして狙われることは言うまでもない。

とはいえ、カニは何度も海から離れようとしてきた。現代のカニは海辺やサンゴ礁、深海だけでなく、河口や川、湖にも暮らしている。カリブ海に生息するオオガニ科のGecarcinus ruricolaのように、ほとんどの時間を陸で過ごすカニもいる。

遺伝子などの生体分子から系統樹を描く研究者たちは、非海生のカニが最初に進化したのは約1億3000万年前の白亜紀の最初期だと推測している。非海生のカニの化石は最も古いもので約7000万年前のものしか見つかっていなかったが、ミャンマーで新たな化石が発見されたことで、化石記録が遺伝学的な推定に近づいた。

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化石を巡る倫理的な課題
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