日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/2/21

それでは、シャチはどのようにして自分たちの倍以上の大きさの獲物を仕留めるのだろうか。決め手は家族の絆だ。シャチは、祖母、母親などが率いる結束の強い群れで生活している。シャチは生き延びるために、互いに学びあい協力しあう。たとえば、今回報告された狩りには、最大50頭のシャチが参加していた。複数の小規模なグループが連携し、獲物にかみついて溺死させるまで何度も役割を交代していた。

「こうしたシャチのグループは、人間と同程度か、それ以上に長生きします。ですから、何十年もの間、協力して狩りを続けています」。ピットマン氏はこう話し、シャチの捕食戦略をオオカミの狩りになぞらえている。「チームとして実際に行動することで、協力して成果を上げる多くの方法を習得できるのです」

シロナガスクジラの子の舌(シャチの好物)にかみつくシャチ。このシャチは成獣のメスとみられ、論文で取り上げた3件の捕食行動すべてに参加していた(PHOTOGRAPH BY JOHN DAW, AUSTRALIAN WILDLIFE JOURNEYS)

双方にとって朗報?

このような捕食行動について、ピットマン氏は、シャチとシロナガスクジラ双方にとって好ましい兆候かもしれないと考えている。シャチは、世界中の海に広く生息しており、その個体数は把握されていない。一方、シロナガスクジラは、1900年代の集中的な捕鯨によって激減し、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種(Endangered)に指定された。だが、世界規模で保護に乗り出した1960年代以降、その個体数は着実に増加している。IUCNの推計によれば、現在、世界全体で5000頭から1万5000頭のシロナガスクジラが生息しているとみられる。

ピットマン氏の話では、もともとシャチはシロナガスクジラを捕食していたが、捕鯨でシロナガスクジラの個体数が急減したため、やむなくほかの獲物を捕食するようになった可能性がある。

したがって、新たな論文で発表された捕食行動は、昔のシャチの食料源が復活し、シャチが以前の習性を取り戻しつつある証拠かもしれないという。

双方の個体数が増加すれば、こうした捕食行動が増加することは予想されるが、シロナガスクジラの個体数回復を脅かすほどの実質的な影響はないだろうと、ピットマン氏はみている。

「捕鯨が始まる前の海がどのようなものであったか、現代の私たちは見たことがありません」とピットマン氏は言う。オーストラリアのシャチは、かつての海洋の様子を、その過酷さも含めて、私たちにのぞかせているのかもしれない。

(文 CLAUDIA GEIB、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年1月28日付]