日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/11/17

「研究によって、該当する時期の私たちが特定した地域にウマが生息していたことが、遺伝子学的証拠でやっと裏付けられました」と、ドイツのミュンヘン・ルードヴィッヒ・マクシミリアン大学の生物学者、ヴェラ・バルムス氏は話す。バルムス氏は、10年前の論文の研究モデルで、ボルガ・ドン地方を家畜ウマの起源と推定していた。

「私たちの研究では、この地域からウマの生息域が急速に広がったと推定していました。今回の論文でも同じことが示されています」とバルムス氏はメールに書いている。

人とウマの歴史

ユーラシア大陸の各社会では古来、ウマに慣れていた。それが、ボルガ・ドン地方の家畜ウマが瞬く間に広がっていった要因かもしれない。英セクセター大学の考古学者ケイト・カンネ氏(今回の研究には関与していない)は、次のように指摘している。

「短期間で家畜ウマが広がっていったのは、元々社会に基盤があったからだと思います。ウマの飼育をよく知る人もいたのでしょう」と、ケンネ氏は言う。

青銅器時代以降も家畜ウマは普及し、人々が以前よりも遠くまで旅をするようになったので、移動だけではなく貿易や知識の伝達も活発になった。移住する人々は、飼っているウマを連れていった。

オーランド氏は「これがグローバリゼーションの始まりです。まさに人間がウマを家畜化したことで、世界は小さくなりました」と話す。

たとえば、ロシア南部にある青銅器時代のシンタシュタ文化の遺跡から、ウマの家畜化を示す最古の痕跡が複数見つかっている。この遺跡からは、ウマの遺骸とともに古代の車輪が発掘され、移動手段としてウマが重要だったことを示唆している。また、ユーラシア大陸の一部では、人間とウマの遺伝子が進化した時期が酷似していることも興味深い。

カンネ氏は「ウマのDNAの中に、人類の歴史があります」と話す。「人間とウマの関係は、とても興味深いものです。DNAから人とウマの物語が見えてくるのです」

(文 REBECCA DZOMBAK、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年10月27日付]