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1日ビール1缶でも脳が萎縮? 認知機能への影響は…

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

お酒を飲んで記憶をなくすたびに、「認知症」のリスクが心配になるという酒ジャーナリストの葉石かおりさん。同じように感じる酒好きは多いかもしれません。このほど、「少量の飲酒でも継続することで脳が萎縮する」という研究結果が発表になりました。不安になった葉石さんは、臨床脳研究の第一人者で、自然科学研究機構生理学研究所名誉教授の柿木隆介氏に、アルコールと脳の関係について詳しく聞きました。

◇   ◇   ◇

「あれ、昨日の飲み会でお金払ったっけ?」

飲み過ぎて記憶がなくなった翌日、そんなふうに心配になる酒飲みは多い。「まん延防止等重点措置」が明け、久しぶりに会った方と深酒をした翌朝は、案の定こんな感じでスタートした。

リビングから玄関へ、点々と置き去りにしたアクセサリーや時計などを拾いながら、玄関を見てハッとした。昨日、履いていた靴がないのだ。

そして、ドアを開けてみると、そこにはなぜか脱いできれいにそろえられた靴が置いてあった。

久々のやらかしに自分でも大爆笑。しかし、その一方で、「靴を玄関の外に置き去りにしたことを覚えていないなんて、長年の飲酒で脳が萎縮してしまっているのではないか」と不安になった。

多量の飲酒を長年続けていると、脳が萎縮してしまうという話は聞いたことがある。しかも、最近になって、それほど量は多くなくとも、つまり「ほどほど」の飲酒でも、習慣的に続けると脳は萎縮する可能性があるという研究結果[注1]が発表された(参考記事「習慣的な飲酒 少量でも脳に悪影響を及ぼす恐れ」)。

もしそれが本当なら、やはり私の脳も飲酒の影響で何らかのダメージを受けているのかもしれない……。

これはもう、脳の専門家に確かめるしかない。臨床脳研究の第一人者であり、自然科学研究機構生理学研究所の名誉教授で、『脳にいいこと 悪いこと大全』(文響社)などの著書がある医学博士の柿木隆介氏にお話を伺った。

[注1]Nat Commun. 2022 Mar 4;13(1):1175.

少量の飲酒でも脳が縮む可能性が明らかに!

先ほどの研究では、英国の中高年3万6678人を対象に、脳のMRI(核磁気共鳴画像法)の画像を解析した結果、少量の飲酒、つまり1日に純アルコール換算で8~16g程度でも、習慣的な飲酒により脳が萎縮し、悪影響がある可能性が示唆されている。ビール1缶(350mL)が純アルコール換算14g程度であり、日本では1日20g程度が健康を害さない「適量」の飲酒だといわれているから、酒飲みにとって8~16gというのは、本当に「ほんの少し」の量なのだ。

先生、酒飲みにとっては見逃せない論文が発表されましたが、この結果をどうとらえたらいいのでしょうか?

「今回の論文では、確かに少量の飲酒を継続した人でも脳が萎縮していますが、肉眼で見てもほとんど分からない、解剖学的には非常にわずかな萎縮です。研究方法は正しいと思います。しかし、ソフトウエアで解析した結果、萎縮していることが明らかになっているものの、認知機能にどの程度影響があったのかについては言及されていません」(柿木氏)

「肉眼では分からない程度の萎縮」と聞いて、ほんの少しだけ心が軽くなる。だが、わずかでも萎縮していることには変わりない。それにより、認知症のリスクが上がるのではないかと心配してしまう。

「繰り返しになりますが、論文では認知症のリスクがどのぐらい上がるかについては触れられていません。そもそも、お酒をたくさん飲む人の脳は、飲まない同年代の人の脳と比べて、10~20%ほど萎縮していることが多い、という研究は以前からありました。しかし、そういった研究でも、アルコールによる脳の萎縮で認知症のリスクが大きく上がったとはいえなかった。今回、少量飲酒でもわずかに脳が萎縮するということが明らかになったわけですが、やはり認知症のリスクが上がるとは考えにくいでしょう。このレベルの飲酒であれば何の問題もありません」(柿木氏)

柿木氏の力強い「何の問題もありません」という一言で、一気に不安が解消され、「よし、今夜も飲もう」と思うことができた。

アルツハイマー型認知症でも脳の萎縮は起きているが…

我々のような酒飲みは、日常のちょっとした物忘れでも「アルコールによる認知症か?」と心配になってしまうのだが、その可能性は低いということか。だが、酒飲みが将来の認知症を全く心配しなくていいのかというと、そうではないだろう。アルコールと認知症の関係について、もっと詳しく知りたい。

「認知症とは、何らかの原因によって脳の認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態を指します。アルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型などの種類があります。アルツハイマー型は、脳にアミロイドβなどのたんぱく質が異常に蓄積し、記憶をつかさどる海馬を中心に萎縮が起きます。脳血管性は、脳梗塞やくも膜下出血などが原因で脳に障害が起きるもの。レビー小体型は、レビー小体というたんぱく質が脳に蓄積します。前頭側頭型は、理性をつかさどる前頭葉と、言語をつかさどる側頭葉が萎縮することで、認知症になります」(柿木氏)

つまり、アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症などでも脳の萎縮が起きているわけだが、それらでは海馬や前頭葉、側頭葉など、脳の認知機能にとって"要"となる部位が萎縮している。それに対し、アルコールによる脳の萎縮は、「脳全体」に起きているのが特徴だという。

「アルコールの大量摂取が原因と考えられる『アルコール性認知症』もありますが、非常に限られたケースです。それも、飲酒で脳が萎縮したことで認知症になるのではなく、飲酒や塩辛いつまみを食べ続けたりすることで起こる『多発性脳梗塞』などの脳血管障害が主な原因です。肥満や血管性の病気もなく、ごく普通にお酒を飲んでいる人であれば、まずアルコール性の認知症にはならないと考えていいでしょう」(柿木さん)

多発性脳梗塞とは、脳内部の深いところにある細い血管が多発的に詰まることで発症する。高血圧や動脈硬化が背景にあるが、それらに飲酒が関係していると考えられるわけだ。また、肥満があると血圧も高くなりやすい。

このほか、飲み過ぎによる肝硬変や、同じく飲み過ぎで膵臓(すいぞう)にダメージが起きることによる糖尿病なども、認知症につながる恐れがある。つまり、アルコール性の認知症というのは、いずれも飲酒が直接的な原因ではなく、間接的な原因なのである。

脳の萎縮は避けられない加齢現象のひとつ

柿木氏は、そもそも脳の萎縮は避けられない加齢現象のひとつだと言う。年を取ると脳の神経細胞が死んでいき、それにより脳の萎縮が起きる。一般的には、30代くらいから脳の萎縮が少しずつ始まり、65歳を過ぎると、肉眼でも分かるほど萎縮が進んでいくという。

20代の脳と70代の脳の比較

「飲酒はこの加齢による脳の萎縮を進めます。MRIの画像を見ると、年を取った人の脳では、脳脊髄液で満たされている側脳室(そくのうしつ)が大きくなっていることが分かります。これは脳全体が小さくなったことによって、側脳室が広がったことを示しています」(柿木氏)

アルコールが加齢による脳の萎縮を進めると聞いて、再びちょっと心配になってしまった。なぜ、アルコールによる脳の萎縮は、アルツハイマー型認知症などの脳の萎縮と違って、それほど問題を起こさないのだろうか。

「では、分かりやすいたとえで説明しましょう。太い幹があって、たくさんの枝がついている『大きな桜の木』を想像してみてください。その桜の木が脳だとすると、アルコールによる脳の萎縮というのは、小さな枝がなくなった程度のことなのです。昔の写真と比べれば枝がなくなったことに気がつきますが、桜の木としては問題がなく、春になれば花が咲きます。一方で、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症は、桜の木の主要な部分に重大なダメージが発生しているのです」(柿木氏)

柿木氏によると、アルツハイマー型認知症は、桜の木の幹がいつの間にか空洞化しているようなものであり、脳血管性認知症は、強風によって桜の木の重要な太い枝がポッキリ折れてしまったようなものだという。これでは、いずれ木が枯れたり、倒れたりしてしまう。

なるほど。アルコールで脳が萎縮しても、しょせん「枝葉の部分」で、脳の機能には基本的に問題がなく、認知症のリスクにはつながらないことが多いのだ。酒飲みにとっては、今度こそ明るい兆しが見えてきたと言えよう。

アルコールで脳が萎縮する仕組みは分かっていない

それにしても、なぜアルコールで脳が萎縮しても、認知機能に対しては影響が小さくて済むのだろうか。そもそも、どんな仕組みで酒を飲むと脳が萎縮するのだろう?

「実は、どのようなメカニズムによってアルコールで脳が萎縮するのかは、まだよく分かっていないのです。ただ、飲酒によって、脳の重要な機能が損なわれるのではなく、脳が全体的に萎縮していくということが分かっています」(柿木氏)

なんと。仕組みが分かっていないというのは、ちょっと不思議な気もする。

「酒が直接的に認知症に結び付くわけではないので、安心してください。ちなみに、私も酒が好きですが、私の脳も萎縮していますよ(笑)。大酒飲みは、萎縮している人が多いと思います」(柿木氏)

安心したのもつかの間、柿木氏は「とはいえ、飲酒でさまざまな病気のリスクが上がらないよう注意しましょう」とクギを刺すのを忘れなかった。

「飲酒は、動脈硬化や糖尿病などのリスクを上げます。それらがやがて、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症につながる恐れもあります。つまり、アルコールが間接的に認知症の原因になる可能性はあるわけです。ですから、動脈硬化や糖尿病につながるような、ムチャな飲酒はしないことです」(柿木氏)

アルコールによる脳の萎縮と認知症はイコールではないが、飲み過ぎて糖尿病や動脈硬化になると、そこから認知症につながる恐れがある。そうならないためにも、やはり酒量のコントロールは欠かせないのだ。

しかし、ついつい飲み過ぎてしまうのが酒飲みの性である。実はこの「酒を欲する気持ち」に、脳は深く関与しているという。次回は、アルコールと脳の「相性の良さ」について、引き続き柿木氏に教えていただこう。

(文 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト)

[日経Gooday2022年5月12日付記事を再構成]

柿木隆介さん
自然科学研究機構生理学研究所・名誉教授。1953年生まれ、福岡県福岡市出身。臨床脳研究の第一人者。自然科学研究機構生理学研究所・名誉教授。順天堂大学医学部・客員教授。日本神経学会専門医。九州大学医学部卒業後、神経難病の解明を目指し神経内科医となる。その後、より深い次元で人間の脳機能を研究するためロンドン大学医学部神経研究所などを経て、1993年より岡崎国立共同研究機構生理学研究所(現、自然科学研究機構)教授。著書に『脳にいいこと 悪いこと大全』(文響社)、『記憶力の脳科学』(大和書房)、『読むだけでさみしい心が落ち着く本』(日本実業出版社)など多数。

名医が教える飲酒の科学

著者 : 葉石かおり
出版 : 日経BP
価格 : 1,650円(税込み)

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