医療DXへ「リノベーション」 必要な「ピボット」経験HDCアトラスクリニック院長 鈴木吉彦

写真はイメージ=PIXTA
DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代、医療はどう変わっていくのか。生活習慣病の代表格ともされる糖尿病の専門医で、1990年代後半~2000年にかけて医療情報ポータルサイト(MediPro/MyMedipro)を立ち上げるなど、デジタル領域についても豊富な知見を持つ鈴木吉彦医師(HDCアトラスクリニック院長)に医療とデジタルの新時代について語ってもらいます。

インターネットの黎明(れいめい)期、1990年ごろのIT業界では、先行逃げ切り型が有利と言われていました。しかし、最近は、後発メリットを生かしたIT企業の方が有利とされます。

このコラムで以前、正体不明の路上アーティスト、バンクシーの作品が、唯一無二のデジタル資産であると証明できる「非代替性トークン(NFT)」を活用して販売されたことを紹介しました。ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した自律分散型ネットワーク「Web3.0」においてすら出遅れている日本で、さらに進んだネットについての新しい概念を創ることは難しいように思えます。

であるなら、別の道を探ればいいのです。既存の建物に新たな機能や価値を付け加える大規模改装工事のことを「リノベーション」といいます。この「既存品を組み合わせて、新たな付加価値をつけて売る」という考え方は、とても現代に向いているのではないでしょうか。

代表的な例が、楽天グループの「楽天モバイル」です。約6000億円を投じて携帯電話事業に参入、さらに格安でサービスを提供、というのは意表をついた試みと受け止められましたが、実現できています。その背景には、電波を飛ばすための基地局が、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクに比べて、はるかに小型かつ安価で作れるようになったことがあります。すなわち、後発であることが有利となったわけです。

リノベーションの達人、スティーブ・ジョブズ

国家レベルの代表例は中国でしょうか。国土が広すぎて固定電話が普及していなかったおかげで、スマートフォンが一気に普及しました。

「リノベーションの達人」を挙げるなら、米アップルの創業者、スティーブ・ジョブズでしょうか。携帯音楽プレーヤー「iPod」はその最たるものです。私がネットビジネスに参入した1996年ごろ、記憶媒体はペラペラなフロッピーディスクが主流でした。当時のハードディスク駆動装置(HDD)の価格は1ギガバイト(GB、ギガは10億)あたり1億円と腰を抜かすものでした。そのHDDが小型化され、手のひらサイズで数万円ほどの「後発品」となり、大量生産されるようになったとき、HDDのリノベーションが起こり、iPodが生まれたのです。

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