脱・孤独な育児 周りが応援する時代に

「時代は確実に流れている。昔と比べると、仕事と育児の両立を支援する制度ができたし、つらかったらつらいと訴えれば取り上げてもらえるかもしれない。それは大きな変化です」。こう語るのは、恵泉女学園大学学長の大日向雅美さんだ。

大日向さんは、「子どもは3歳までは、家庭で母親が育てないとその後の成長に悪影響を及ぼす」といった「3歳児神話」や「母親なら~すべき」といった「べきお化け」などの言説の問題点を明らかにしてきた。科学的根拠がないことを指摘しただけでなく、何千人もの母親たちの声に耳を傾け、そうした言説がもたらす孤独な育児などの問題を提起。NPO法人あい・ぽーとステーション(東京・港)の代表理事として、地域の子育て・家庭支援事業を手掛けるなどで、その解決にもあたってきた。

恵泉女学園大学学長の大日向雅美さんは「ポテサラ論争」を巡る世間の反応から、「社会が確実に明るい方向に変わってきた」と語る

一連の活動の原点は、大学院時代に長女を保育園に預けようとした際、電話の向こうから聞こえてきた、こんな言葉だった。「あぁ、育児放棄のお母さんね」

後に園長面談で自身の研究の目的と意義などを訴え、結果的に長女は保育園に入園できた。だが、「背中に水をかけられたようで頭が真っ白になり、受話器を置いた後、泣いてしまった」という、その言葉の衝撃はいまだに忘れられない。

「自分を責めないで」「子育ては母親1人でなく社会で担うもの」――。大日向さんはそう呼びかけてきた。それだけに今回の「助けになった一言」を見て、「子育てはお母さん1人じゃできないとみんなが言ってあげている。『完璧じゃなくていい』『あなた1人ががんばらなくていい』『子供の育つ力を信じてあげて』。こういう言葉を周りの人が言ってくれる時代になったのはすごく良かった」と感慨深げだ。

ポテサラ論争が教えてくれたもの

2022年7月、世界経済フォーラムが発表した22年の「ジェンダー・ギャップ指数」によると、男女の平等度合いを示すこの指数で日本は146カ国中116位。主要7カ国(G7)では最下位とあって、まだいろいろな課題が残るのは確かだ。

ただし、それは旧態依然ではないと、大日向さんは状況を「らせん階段」にたとえる。「本人の気持ちは(両立生活などでの葛藤から)渦を巻くことも。けれど、周りが『抱え込まないでいい』と言ってあげられるようになったなど土壌が変わってきている」。20年に持ち上がった「ポテサラ論争※」を例に挙げ、「あの一件でも『ポテサラ買っていいよ』と応援する声が挙がった。確実に明るい方向に変わってきているという予感はします」と話す。

※編集部注 総菜コーナーでポテトサラダを買おうとした幼児連れの女性に、高齢の男性が「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言って立ち去るのを見かけた人が、その女性の目の前で「大丈夫」と念じながら娘を連れてポテトサラダを買ったところまでの一連をツイッターに投稿し、話題になった。

「女性たちも力をつけてきた」。大日向さんは、仕事中に子供の熱で呼び出しを受け、上司に「お母さんの代わりはいないので早く帰ってあげて下さい」と言われたことを挙げた小学4年生を育てる女性の声に注目する。その言葉を挙げた理由として、子育て期の母親自身が「誇りを持って迎えに行くことができました」と書いているのが目を引くという。なぜなら、「母親の代わりはいない」といった言葉は、かつてはむしろ炎上を招くこともあったからだ。

「『病気のときくらい、(子どもの)そばに居てあげて』といった言葉もそうです。かつてだったら、働く自分を常に責められているようで『病気じゃないときの自分は母親失格とでも?』となるなど、相手の厚意も受け止められなかったように思う」。かけられた言葉を素直に受け取り、感謝する声が多いことに「『あ、肩の力を抜いていいのね』と受け止められるだけの『心の筋力』がついてきたのではないでしょうか」と大日向さんは分析する。そして、それは均等法第一世代から脈々とバトンが渡される形で、道が開かれてきたことと無縁ではないだろうと説く。

「らせん階段」(大日向さん)で引き続きの課題もある一方、調査で集まった「助けになった一言」から、プラスの変化が感じられた。そうした環境下、両立生活を送る人たちも、助けを求める側にばかりなるわけではない。前出の保育園を考える親の会の渡邊さんは、「育休復帰後、新しい生活に余裕が出てきてからでいいから、できるときは職場の周りの人の仕事も引き取って協力しよう」と呼びかけている。

(佐々木玲子)