プレゼンティーイズムの中で日本人が最も悩む首の痛みや肩こりによる生産性低下を防ぐために、自分でできることもある。オンライン学習サービスのSchoo(スクー)で「姿勢学」などの講義をもつIbisの内田氏は「パソコンを打ったりスマートフォンをみたりと、頭が前方に傾き、肩が前に出て、首や肩、背中の筋肉が伸びた状態になりがちだ。血流が悪く筋肉が硬くなり肩がこりやすくなる」とし、「頭と背中が一直線になるよう姿勢を意識することが大事だ」と語る。その上で「正しい姿勢でも、同じ状態で8時間座っていれば肩はこる。生活の中で適宜体を動かす習慣を身につける」ことを提案する。
限られる脊椎脊髄の専門医
東急スポーツオアシス十条などで体の機能改善を指導するフィットネストレーナーの西沢実佳氏に、肩周りの血流の改善に有効なストレッチ法を聞いた。動画を参考に自宅や職場で仕事の合間に実践してみてはどうか。
それでも痛みが改善しなかったり、手や指先にしびれを感じたりするのであれば「正確な診断と専門的な治療が必要となる。頚髄(けいずい)症や頚椎(けいつい)椎間板ヘルニアなどの変形疾患であったり、脳梗塞や糖尿病、感染症、ガンの転移など他の病気が原因で手や指先にしびれや首に痛みがでたりしているかもしれない」。こう語るのは、東京慈恵会医科大学付属病院脊椎・脊髄センターの篠原光副センター長(整形外科)だ。
これまで大学病院および世田谷人工関節・脊椎クリニックなどで4千件を超える脊椎脊髄手術に携わってきた篠原氏は「パソコンのキーが打ちづらかったり、スマホをタップできなかったりするまで我慢して放置する人もいるが、症状が慢性化すると手術をしても改善の実感が得られにくい」として、早めにコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などの精密検査と脊椎脊髄外科の専門医の受診をすすめる。
ただ、整形外科医の中で首などの脊椎治療を専門にしている医師の数は限られる。日本整形外科学会に所属する医師は約2万6千人だが、脊椎治療を手掛ける医師は15%程度で、専門性が高い指導医はその半数ほどだという。日本脊椎脊髄病学会のウェブサイト(http://www.jssr.gr.jp/)にある全国の指導医リストは助けになるだろう。
ここまで個人が努力をしたとしても、プレゼンティーイズム対策には限界がある。「職場でのメンタルヘルスに対する企業の課題意識は高まっている」(永田氏)が、それと比べて、「国民病」の肩こりの仕事への影響に対する企業の認識はどうか。海外では、医師や専門家がオフィスの机や椅子、腕の位置などをコンサルティングする機会を設ける企業もあるという。日本でも、肩こりなどの痛みへの対策を放置すると企業損失につながることをもっと意識すべきだ。
(編集委員 木村恭子)
[日経電子版8月23日公開記事を再構成]