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ニュージーランド 絆と内省を得るハット・ハイキング

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ナショナルジオグラフィック日本版

「古くて、かび臭くて、汚れてて、本当に気味が悪い。年に10人ぐらいしか泊まらないでしょうね」

トタン板と木材で建てられた「ジャックス・フラット・ビーヴィー」について、キャロル・エクストンさんは、このように説明する。このハット(山小屋)は、ニュージーランドの薄暗い谷に広がるうっそうとした森にたたずむ。身をかがめないと入れないほどの小さなハットだが、実はエクストンさんのお気に入りで、ニュージーランド政府が管理する1000軒のうちの1つだ。エクストンさんのトレッキング熱をかき立てるこのハットは、ニュージーランドで愛されるハイキング文化を表す典型的な存在となっている。

そびえたつ山々と険しい海岸でよく知られるニュージーランドでは、実際にハイキングが生活の一部となっている。そして、1万5000キロメートルにも及ぶハイキングコースに点在しているハットを巡る「ハット・ハイキング」は、ニュージーランドを満喫する最適の方法といえるだろう。

すべてのハットが、「ジャックス・フラット・ビーヴィー」のような2人用の質素な小屋というわけではない。建物自体も魅力的で、高山の尾根に位置し、氷河を見渡せるハットもある。ハットの多くは、100年以上も前に建てられ、古くからの降雨林やきらめく海岸を見守ってきた。壁には、昔のハイカーが書いた名前やメッセージが今も残っている。ハットは、何十年間も歴史の証人となってきたのだ。

こうしたハットの多くは、無料または格安な料金で利用できる。エクストンさんのように、国内のすべてのハットを訪れようと意欲を燃やす人々がいるのも当然といえる。

ハットの「生い立ち」はさまざま

こうしたハットがニュージーランドの人里離れた奥地に誕生したのは、1880年代後半のことだ。羊飼いたちは、地元の石材を利用して、サザン・アルプス山脈のふもとの草地に小屋を建てた。金採掘者たちは、川岸にトタン板で小屋を建てた。人けのない海岸にも、難破船から逃れた漂流者の避難小屋が建てられた。

ヨーロッパからの入植者たちが、ニュージーランドを母国に似た景観にしようと、シカやシャモアなどの動物を持ち込んだ結果、生態系に被害が生じ、20世紀半ばには、その駆除のためにさらにたくさんの小屋を用意した。その後の数十年間に、こうした動物を害獣駆除業者が数十万頭も駆除し、国内の最も辺ぴな場所に、6人用の小屋だけがそのまま残った。

もっと特殊な状況から生まれたハットもある。フィヨルドランドのけわしい南岸沿いには、満潮線からそれほど離れていない洞窟に、オーウェン・ウェストという人物が建てた5人用のハットがある。「ウェスティ」とも呼ばれた彼は、1980年代半ばに、口論の揚げ句に漁船から飛び降りて、この場所に住み着いた。言い伝えによれば、ウェスティは、荒波を泳いで海岸にたどりつき、海に流れ着いた漂流物で小屋を建てたという。

また、逃亡者の隠れ家となったハットもある。ルアヒネ森林公園にある「エリス・ハット」は、1904年に、殺人犯として起訴されたジャック・エリスが、追っ手を逃れて隠れ住んだ小屋だ。カフランギ国立公園の「アスベスト・コテージ」には、かつて、夫の虐待から逃れた女性が住んでいた。1914年、この女性は、恋人と一緒に山の隠れ家に逃げ、30年間、この小屋で暮らした。

多くのハットは、学校の校舎、灯台守の宿舎、農家などに使用されていたが、現在では公共施設に転換されている。1987年、自然保護局(DOC)が発足し、ハットのネットワークをすべて継承した際には、ニュージーランドの山々に数百のハットが広く点在していた。

「定員6人のハットに30人」の思い出

ハットに秘められたこうした昔の物語は、それぞれの建物の長所(または短所)とともに伝承となり、ニュージーランドのハイキングの魅力を高めている。

ブライアン・ドビーさん(64歳)は、DOC発足当時から、ハット・ネットワークを管理するチームで働いてきた。この34年間に、さまざまなハットに出会ったが、そのなかには、派手な紫色にオレンジ色の花が描かれたハットもあったという。1980年代、ドビーさんは、このハットでファンキーな一夜を過ごしたことがある。

DOCのハットは、いつでも誰でも利用できるので、見知らぬ人同士でも和気あいあいとした雰囲気が生まれると、ドビーさんは感じている。ドビーさん自身も、激しい土砂降りで野外のテントが浸水した時に、小さなハットで大人数と過ごした記憶がある。「定員6人のハットに、私を含めて30人が押しかけたのです」と、ドビーさんは振り返る。「1人分のスペースは55センチメートル四方もありませんでした」。それでも、全員が陽気にその時間をやり過ごした。

それが「ハットの魅力の1つだ」と、ドビーさんは言う。粗末な掘っ立て小屋でも、そのトタン板の屋根や木の壁を越えた意味を持つことがある。思い出がはぐくまれ、素朴な楽しみを味わえるハットは、絆と内省が生まれる場となる。

ハットの宿泊日誌にしるされたハイカーの走り書きにも、物語が詰まっている。比較的利用者が少ないハット(実は最も人気がある)では書き込みも少ないので、何年も前の記録が残っている。日誌は、ノートに書かれたものばかりではない。「ジャックス・フラット・ビーヴィーの日誌は、ドアに書かれているんですよ」とエクストンさんは言う。ハイカーたちは、ドアに、自分の名前や行き先、職業などを走り書きして去っていく。

こうした書き込みの伝統のおかげで、驚くべき発見が生まれるハットもある。カンタベリー地方のハカテレ保護公園にある「ダブル・ハット」の壁で、ドビーさんは、たくさんの名前のなかに紛れこんだ著名人の名を見つけた。「エドモンド・ヒラリー卿の名前があったのです。本人は『ヒラリー卿』ではなく、『エド・ヒラリー』と書いていました。世界最高峰のエベレストに登頂した彼も、このハットに泊まって、名前を書き残したのです」

あえて辺ぴにあるハットを目指す理由

DOCネットワークのすべてのハット制覇を目指す熱心なハイカーたちにとって、このような隠された物語を見いだすチャンスも動機の1つになっている。こうした自称「ハット・バガー」たちの職業はさまざまだが、子どもの頃からハットに夢中になっている人が多い。

エクストンさんが育ったウェリントン郊外は、港のある海岸と低木に覆われた急勾配の丘陵地帯に挟まれていた。同級生たちが道路を歩いて帰宅する放課後に、エクストンさんは丘陵地帯に登った。「下校してお茶の時間までの2、3時間に、私はいつも探検に出かけました」と当時を振り返る。60歳になった現在も、彼女は頻繁に丘陵地帯に姿を消す。ゴムボートやカヤック、ハイキングで、国内で特に辺ぴな場所にあるハットを目指すのだ。これまでに525のハットを訪れたという。

荒野にぽつんと立ち、誰かに見つけられるのを待っているようなハットには、たまらない魅力があり、エクストンさんを引き付けてやまない。ハットにたどり着くのが難しいほど、感動も大きくなる。「ジャックス・フラット・ビーヴィー」への訪問が実現したのは、「2回の挑戦と3日間の旅、そして、12時間の辛いハイキングの果てのことだった」とエクストンさんは話す。

25歳のベンジャミン・ピゴットさんは、ハット・ハイキングがもたらす自由が大好きだ。「これは、ある種の避難ですね。友人関係を修復したり、火のそばでお茶を飲んだり、本当に大切なことについて話し合ったりするのです」

ピゴットさんは11歳の時に初めてハットを訪れたのがきっかけで、それ以来、ハットのとりこになっている。10年前から集中的にハット・ハイキングを始め、312のハットを訪れた。ピゴットさんのお気に入りは、ネルソン・レイクス国立公園にある「イースト・マタキタキ」で、6日間のハイキングで到着した。「深い雪とたくさんの冒険に満ちた感動的な旅でした。寒くてぬれていることが多かったですけどね」と、旅を振り返っている。

自然との絆を感じることこそ、ハット・ハイキングの醍醐味だ。「ニュージーランドの人々は、もともとアウトドア活動が好きなのです」とピゴットさんは言う。「私たちには、ガヘリ(ngahere:森林を意味するマオリ語)、つまり大地や森と深いつながりがあるのでしょう」

(文 PETRINA DARRAH、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年5月17日付]

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