ゴマは低糖質で抗酸化成分たっぷり

中東や欧米で使われているゴマは白ゴマという種類のもの

一方、白ゴマは黒ゴマよりも油の含有量が多いので、タヒーニのようにペースト状にして使うのに向いている。ほかに、トルコで特有に栽培されているものとして黄ゴマというものがある。これは風味に特徴があるということで、日本でも近年これの香りのよさを打ち出し、名称も「金ゴマ」と言い換えて売り出されている。

それでは日本はゴマをどれぐらい生産しているかというと、農林水産省のサイトでは「国内に流通しているごまのほとんどが輸入品です」という記述が見つかるぐらいで、数字は簡単に出てこない。「機械化できる部分が少なく、手間がかかるため、国内での生産増はなかなか難しいのが現状です」ともある。

トルコで栽培されている黄ゴマは、日本でも近年香りのよさを打ち出し、「金ゴマ」として訴求している

世界のゴマの生産状況はJETROがまとめた20年のデータによると、生産量トップはスーダン、2位以下は1桁少なくミャンマー、タンザニア、インドなどが続き、このうちミャンマーは特に黒ゴマ生産が多い。ゴマをたくさん利用することは、文化交流だけでなく貿易による国際交流の振興にもなるということのようだ。

さて、前述のフムスは中東を中心とする地域の人たちの日常食であり、それにタヒーニがたっぷり使われているということは、彼らは毎日たくさんのゴマを食べていると言える。赤飯の上にちょっと散らすとか、おひたしなどの小鉢にちょっと振りかけるぐらいのお付き合いしかない日本の者からすると、これは大きな違いだ。特に栄養的にどんな御利益があるのかは気になるところだ。

何とゴマは、半分かそれを超える分が脂質である。「それは太りそう」と思うかもしれないが、2割がたんぱく質で、また2割近いがそれより低い分が炭水化物となっている。したがってゴマ食は糖質制限ダイエット向きと言えるかもしれない(ただし、例のフムスの主食材のひよこ豆は炭水化物の多い食品ではある)。

いずれにせよ、ゴマは油脂の多い植物である。しかも、比較的やせた土地でも手間なく育てやすい作物ということもあり、古来、油を取るための植物として栽培され、利用されてきたという。化粧品や薬としても利用されてきたというのは、主に油脂として保湿などに使われてきたようだ。

一方、中東は日差しが強い地域のイメージもあるので、ひょっとして美白効果とか抗酸化作用とかがあったりはしないか。実はゴマはリグナンというポリフェノールを含み、それは抗酸化作用を持つという。リグナンには、セサミン、セサモリン、セサモール、セサミノールといった種類がある。

そうは言っても、たとえフムス食ゾーンであっても、食事としてのゴマから摂ることができるリグナンはそれほど多くないので、リグナンを摂るにはサプリメントということになるだろう。上記のリグナンの種類の中に最近のサプリメント成分でもよく見かける名前があるわけだ。

このリグナンについては、健康食品メーカーだけでなく農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)も注目したようで、同機構は高リグナン含有のゴマ品種として「ごまぞう」「まるえもん」「まるひめ」という3品種を育種してリリースしている。

日本のゴマ生産量は決して多くないが、日本発のゴマ品種が世界のゴマ生産をさらに活性化するかもしれない。こんなロマンも抱きつつ、まずはこの夏、コロナ禍を超えて日の目を見るタヒーニ料理を楽しみたい。

(香雪社 斎藤訓之)

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