日本の練りゴマそっくりだが作り方は多様

「タヒーニ」の食品表示欄には、何と「名称:ねりごま」!

びんの表示を見てみると、確かに「名称:ねりごま」と書いている。しかも、「原材料名:ごま」で、エキゾチックな風味につながるようなハーブ、スパイス、ほかの材料由来の油脂などは使っていない、いわば全くの「ジェヌイン(正真正銘)練りゴマ」である。

実は、和訳された海外のベジタリアンが書いたレシピブックで、タヒーニという語には「ゴマペースト」「ゴマバター」あるいは「ねりゴマ」とカッコ書きで添えられていることが多い。また、タヒーニをネット検索で調べていたときに、あるサイトで芝麻醤(チィマァジャン)に誘導されて面食らったことがある。芝麻醤も練りゴマであり、そのウェブサイトの誘導は正しかったのだと理解した。

中華料理の調味料、芝麻醤もねりゴマ

ただし、だからといってタヒーニがどれを選んでも誰が作っても同じということではない。というのは、欧米の料理好きには既製品のタヒーニを買って来るよりも、ゴマを買ってきて自分で作って楽しむ人も多いようで、ユーチューブでは各国のいろいろな人のタヒーニ作りを見つけることができる。そのそれぞれの流儀に違いがあるのだ。

それらからタヒーニ作りの一般的なプロセスをまとめると、まずゴマを軽く煎(い)る。英語圏の人はトースト(toast)すると表現しているので、さっとあぶってからりとさせるイメージだが、「よい香りがするまで」のように表現している人もいる。ゴマが含む油脂を軟らかくして、香りを引き出すための仕事だろう。

ゴマをほどよく煎ったら、それをフードプロセッサーにかけてそぼろ状にする。そこに食用油(多くの場合オリーブオイル)を加えて、さらにフードプロセッサーにかける(筆者が買ったギリシャ産のびん詰めの場合は、原材料がゴマだけなので、ゴマ油を加えて練ったものと考えられる)。これに適宜、塩を加えて味を調えるなどして完成だ。

こうしたプロセスのあらましはだいたい共通だが、トーストの度合い、加えるオリーブオイルの量、フードプロセッサーにかける時間の長さはさまざまだ。人によって違うだけでなく、同じ人でも料理や菓子の使い道によって変えることを説明していたりするので、なかなか奥深い。

多少本題からそれるが、こうしたタヒーニの作り方を見ていてふと不思議に思うのは、このゴマはなぜ白いのか、ということだ。

日本で育った人の場合(古い感覚なのかもしれないが)、ゴマと言って最初に思い浮かべるものは、赤飯にかけるゴマ塩のゴマではないだろうか。「ごま塩頭」という言葉があるように、そのゴマの色は黒だ。ひょっとして黒ゴマの表面を剥いたものが、あの白いゴマなんだろうかと思ってしまうかもしれないが、実はそうではなく、最初から白いゴマと黒いゴマとがある。

中東や欧米で使われているゴマは白ゴマという種類のもの。黒ゴマは日本など東アジアで栽培・流通しているもので、欧米では見たことがないという人が普通のようだ。黒ゴマは風味が特徴で、色から料理のビジュアルのアクセントにも使える。

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ゴマは低糖質で抗酸化成分たっぷり