ワイン映画が公開ラッシュ グラス傾け産地へ思いエンジョイ・ワイン(54)

「日本ワイン」に焦点を当てた映画「シグナチャー」©2021 Kart Entertainment Co., Ltd.

この秋はワインをテーマにした映画の公開ラッシュだ。11月以降、少なくとも5作品が立て続けに上映される。いずれもドキュメンタリーや実話に基づいたストーリーで、映画としての面白さだけでなく、実際に売られているワインが話の展開と共に次々と登場するのも見どころだ。鑑賞後、作品の中に出てきた産地や造り手に今一度思いを馳せながら、ワイングラス片手に秋の夜長を過ごしてみてはいかが。

5作品中2作品は、日本国内で栽培したブドウから造る「日本ワイン」を扱った作品になっている。ワインを主題にした映画はこれまでも数多く製作されてきたが、日本ワインに焦点を当てた作品は極めて珍しい。近年の日本ワイン人気の高まりを反映したものと言えそうだ。

『シグナチャー』は「現代日本ワインの父」とも称される醸造家の故・麻井宇介さん(本名・浅井昭吾さん)と現シャトー・メルシャン・ゼネラル・マネージャーの安蔵光弘さんとの交流を通して日本ワインの発展を描いた作品。今年のフランス・ニース国際映画祭で最優秀作品賞を受賞したほか、安蔵さんの妻役を演じた竹島由夏さんが同じく今年のパリ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞するなど完成度も高い。

物語の後半、俳優の平山浩行さん演じる安蔵さんが、留学先のフランスから一時帰国し、榎木孝明さん演じる、がんで闘病中の麻井さんを見舞うシーンがある。ふだんは柔和な語り口の麻井さんが、「君が日本のワインを背負って行ってくれよ」と最後の力を振り絞るかのようにして安蔵さんを激励する場面は印象的だ。安蔵さん本人によると、麻井さんは実際にそう言って安蔵さんの背中を2回たたいたという。

※11月4日より新宿武蔵野館ほか全国公開

日本ワインを意味するタイトルの映画「ヴァン・ジャポネ」©NORIZO

フランス語で日本ワインを意味するタイトルの『ヴァン・ジャポネ』は、フランス人のワイン専門家が日本各地のワイナリーをめぐり、生産者やワインを紹介している。特段ひねりがあるわけでもなくシンプルな構成だが、青々としたブドウ畑の映像や生産者自らがワイン哲学を熱く語る様子を見ていると、自然とその生産者のワインが飲みたくなってくるから不思議だ。

監督のNORIZO(のりぞう)さんは「日本にもおいしいワインがたくさんあるぞ、ということを、日本人を含め世界中の人に知ってほしいという思いでこの作品を撮った」と話す。海外での配給も計画している。今回は山梨、長野、新潟、北海道に焦点を当てたが、他の産地も紹介するために第2弾の製作も検討しているという。

※11月25日からエビスガーデンシネマにて上映開始

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世界の頂点に立つワインの造り手ばかり