最高のミネラルバランスを目指し、塩作りに取り組む井上雄然氏

季節で異なる塩のミネラルバランス

春夏秋冬でどれほど塩は変わるのか。このコラムで何度かご紹介してきたが、塩の味わいは塩に含まれるミネラルバランスによって異なる。簡潔に言うとナトリウムが多いとしょっぱさを、マグネシウムは苦味やうまみ、カリウムは酸味やキレの良さ、カルシウムは甘味をそれぞれ演出する。

「四季の塩」は、しょっぱさの目安になる食塩相当量(ナトリウムから導き出される数値)が春夏秋冬のいずれも100グラムあたり91.9グラム~92.4グラムと少なめ。どれも突き刺さるようなしょっぱさはなく、まろやかだ。

では、ほかのミネラルのバランスはどう変わるのか。井上氏は客観的なデータを得ようとできあがった塩を金属元素定量分析にかけている(JIMOS調べ)。それによると、夏の塩がもっともマグネシウムやカリウム、カルシウムの含有量が多い。微量に含まれる鉄や亜鉛、ストロンチウムも同様だ。テイスティングしてみると、全体的にボリューム感がある濃厚な味わいの中に、よい意味での雑味がちらちらと見え隠れする。舌の上や喉の奥に長い時間うまみが滞在し、形状で例えると金平糖のイメージだ。

一方、冬の塩は夏とは真逆で、ミネラルの含有量が最も少ない。味わいは繊細でクリア、余韻も短めですっきりしている。春の塩はミネラルのバランスが良いが、鉄が少ない。海藻が育つ時期でもあり、その影響もあってか海藻や磯の香りが漂う。ボリューム感は中ぐらいで、後味にほのかだが心地よい苦味が残る。

秋の塩も夏の塩同様にボリューム感があるが、一年のうちで最もバランスが取れた味わいで、きれいな球体をイメージさせるなめらかさがある。味覚のレーダーチャートを作るとまん丸になる。

見た目で塩の季節を見分ける方法は今のところない。製法が同一であれば基本的に同じ結晶の形に仕上がるし、色も春夏秋冬のものを見比べてようやく気づく程度の違いにすぎないからだ。しかし、なめてみると驚くほど味わいが異なるのがわかる。今まで数多くの人たちにテイスティングしてもらったが、どの季節の塩が一番好きかは、その人の体調や体質、食事の嗜好によって違う。なんとなくの傾向だが、疲れがたまっている人にはどうやら「夏の塩」は強すぎるようだし、元気いっぱいの人には「冬の塩」は繊細すぎるようだ。

私たちの身体は四季を通じて大きく変化する。同じ季節の中でも細かく変化し続け同じ日は1日としてない。日によって「おいしい」と感じる塩が変わるのは自然なことだ。「四季の塩」はまさに自然の移ろいをそのまま映し出し、日々変化する私たちの身体に寄り添い、調えてくれるまさに「調身料」なのだ。

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旬の塩に旬の食材を合わすのがベスト