
大豆食品といえば、豆腐や納豆、味噌、しょうゆのほかに、近ごろは大豆ミートも、スーパーの肉売り場やチェーンの飲食店のフードメニューで見かけるほど裾野を広げている。ヴィーガンやベジタリアンの需要に注目が集まり、新しい形で大豆食が見直されるなか、はやりとは少し違う角度から、個性的な大豆食品を生み育てているメーカーを発掘。東京と福岡から取り寄せてみた。
東京「登喜和食品」 生食できる日本型テンペ、黒大豆版も
インドネシアの代表的な発酵食品として、日本でもヴィーガンやベジタリアンの間で認知度を上げているテンペ。煮大豆をテンペ菌で発酵させた食品で、白カビをまとい油との相性がよいと言われる。生食はされず、炒め物や揚げ物など加熱調理して食べるのが一般的だ。そのテンペを日本の生食文化に合わせ、加熱せずそのまま食べられるよう開発したのが「登喜和食品」の「生てんぺ」。黄大豆だけでなく、黒大豆の「黒生てんぺ」もある。

同社は1949年から続く納豆メーカーで、日本の農業を応援したいと1999年からは100%国産大豆に切り替えている。テンペに注目したのは納豆と同じく、無塩で作られる大豆発酵食品という共通点があったから。
「多くの発酵食品には雑菌防止や味つけのために塩が必要なのですが、納豆は無塩で作れ、その点ではわりとめずらしい発酵食品なんです。それもあって、インドネシアに塩を使わない大豆の発酵食品があると聞いたとき、親近感が湧いたんですね。せっかく日本で挑戦するなら、日本の刺し身文化のように、生で食べられるテンペが作れないかと思ったのが始まりです」(株式会社登喜和食品 代表取締役の遊作誠さん)
秋田にテンペ菌を持っている会社を見つけ、東京都と共同で研究開発し、商品化に至ったのは2004年。インドネシアから視察に来た女性は、同社のテンペを食べ、「まるでお菓子のよう」と表現したそうだ。

「インドネシアでは大豆の皮を取り除いて、半分に割ったものをテンペ菌で発酵させているので、もっと結着性が強いんです。ナイフでカットしても崩れません。うちのは丸大豆を皮付きのまま使っているので、結着性はインドネシアのものほど強くない。ホロホロと崩れて、食べると栗のようにホクホクしていますから、別物に見えたでしょうね」
調理しなくてもそのまま食べられる「生てんぺ」は、初めての人でも手に取りやすい。小腹が空いたときにちょうどよく、上品な甘みがあるので、お茶と一緒に和菓子感覚で食べてもよさそうだ。肉の代替品というよりは、気軽にたんぱく質や脂質、食物繊維をバランスよくとりたい人に向けた、おいしいスーパーフードと言ってもいい。
「大豆には細胞を作る働きや、血管の炎症を防ぐポリアミンという物質が多く含まれていて、納豆よりもテンペのほうが多いという報告もあります。テンペを毎日少しずつ続けると、体質改善が見られるという研究結果や、お医者さまに教えてもらって食べ始めたという方もいらっしゃいます」

「生てんぺ」は熱処理をしていないため、袋が菌の呼吸で膨らむことがある。テンペ菌が生きている証なのだが、不安に思う消費者も多いため、2020年から「生てんぺ」の製造は受注体制に切り替え、通常は加熱処理した「丸大豆てんぺ」を販売している。栄養的には変わらないそうだが、味わいは生のほうがより大豆のホクホクとしたうま味が生きている。こちらも黒大豆バージョンがある。

同社ではテンペや納豆のほかに、発酵させない蒸し大豆も商品化している。ひき割りの蒸し大豆は生協からの要請で生まれた商品で、ひき肉と合わせてハンバーグやギョーザのあんなどに使われている。蒸し大豆は、品種や生産者によって味わいや食感の違いがストレートにわかり、大豆と一口に言っても個性豊かだ。
大豆は米と一緒に食べると完全食になることから、長く日本の食卓に食べつながれてきた。水で一晩戻して、長時間茹でないと食べられないと諦めず、手間を代わってくれるこうした便利な大豆食品を活用して、体と食卓、そして日本の農業を支えたい。