「銀座スイス」のカレーの味をたどれば帝国ホテル

「銀座スイス」のカレーは、進之助さんの次男、岡田義人さんが修行した帝国ホテルのカレーを原型としている。初期には、当時の同ホテルのメニュー名にならって「カルカッタ風カレー」と名付けていた。タマネギ、ニンジン、リンゴ、ショウガなどに加え、だしとして端材として出た豚肉を一緒に煮込んでいる。

「たくさんのカツを成型する際に出る端材は、形がなくなるように煮込むには時間がかかる。そのため、現在はこれをミンチにして利用しています」と説明するのは進之介さんの孫で、藤岡さんの伴侶である三代目・庄子あけみさん。

すりおろした野菜とひき肉をとろとろに煮込んだカレーは、いわゆる欧風カレーなのだが、小麦粉を炒めてとろみを出すのではなく、食パンに水を加え裏ごししたものを使用している。こうすることで、「うまみと甘みがよくでる」と藤岡さん。一般的な欧風カレーよりもさらっとして、スパイスの香りや味が際立つように感じる。

カツカレーというと女性には少し重いイメージがあるが、120グラムとボリュームたっぷりの国産豚ロースカツが載ったカレーでも、口当たり軽くおなかに収まる。肉厚のカツは衣が薄く、フォークで触るだけでサクっと音がするほどカラリと揚がっている。カツには一部しかカレーがかかっていないので、トンカツのように食べることもでき、一皿で色々な楽しみ方ができるメニューだ。

ちなみに、同店の揚げ物には、生パン粉と純製ラードが用いられている。純製ラードを使うのは、「揚げたときの衣のうま味が全く違う」(庄子さん)からだ。冷めると脂が固まってしまうため、熱々の揚げたてを出す同店ならではのこだわりだ。

中央区の人気土産に選ばれた「洋食屋のカレーソース」(2食セット、1512円)

「カツにカレーをかけずに出してくださいというお客様もいらっしゃいます。2切れだけソースやカラシを付けてトンカツとして食べて、あとはカレーをかけるなど、みなさん好きなように召し上がっている。カレーをソースとして、ハンバーグやオムレツにかけて楽しまれる方もいらっしゃいます」と庄子さん。同店には、トッピングとして「カレーソース」というメニューもあるのだ。「合わせた料理が一層おいしくなる。『銀座スイス』のカレーは名脇役なんです」(同)。

同店のカレーはレトルト商品にもなっているのだが、商品名は「洋食屋のカレー」ではなく、「洋食屋のカレーソース」。単品でカレーとして食べるだけでなく、好きなものにかけ今までとは違う感覚で味わってみてほしいという思いが込められている。この商品は21年に発表された、中央区を代表する土産品を選出する「Central Tokyo Premium Selection」(中央区観光協会主催)の食部門で第2位に選ばれた。本店、八重洲地下街の店と「銀座スイス」のオンラインショップでしか買えない商品で、新型コロナウイルス禍の影響もあり販売は好調だという。

「銀座スイス」の「オムハヤシ」(サラダ付き、2530円)。食事客にはスープも付く

カツカレーが誕生してからは、これがすぐに店のダントツ人気メニューになったのだろうと思ったが、そうではなかった。「64年の東京オリンピックのときでも、圧倒的に人気だったのはオムライスとカレーライスです。カツカレーは値段が高かったこともあるでしょう。オムライスはとにかく人気があって、当時料理長をしていたおじから、朝から晩までひたすらこれを作っていたと聞きました」(庄子さん)。

「当時は卵が貴重で値段が高かった。私の父が『銀座スイス』で働き始めたときは、卵を割ったら、わずかのムダも出ないように1個ずつ殻の内側までティースプーンで削るようにすくったそうです。だから、いくつもの卵を使ってケチャップライスを包んだオムライスは、本当にごちそうだったのでしょう。当時は、メイン料理としてハムエッグなどがあり、ほかのメニューと変わらないような値段が付いていたんですよ」と庄子さんは続ける。

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「銀座スイス」ではシュウマイも洋食