うるわしのイカワールド お酒のアテからアートまで

筆者がパリの自宅にて、自家製めんたいこで作ったイカ明太。お酒のアテにぴったり

ボンジュール! パリ在住ライターのユイじょりがお届けする「食の豆知識」。今回は、年間を通してスーパーや鮮魚店で出合える身近な海の食材、かつ特に今の季節に旬を迎える魅惑の軟体生物、イカに迫る。

古くから日本人に愛されてきたイカ

刺し身・焼き物・揚げ物・煮物・乾物など、姿形を変えながら年中私たちの食卓や酒の場を盛り上げてくれているイカ。遠く過去にさかのぼると、奈良時代、出雲国(現在の島根県東部)で書かれた文献において、北の海にある産物としてすでに「烏賊(イカ)」の記載が見られるほか、平安時代には、朝廷への献上物としてアワビなどとともにイカが重用されていたといい、その歴史は古い。

栄養面を見てみよう。日本食品標準成分表2020年版(8訂)によれば、生のスルメイカ可食部100グラム当たりのカロリーは76kcal、たんぱく質が17.9グラム。一方、高たんぱくで知られる鶏肉のササミ(生)はカロリー98kcal、たんぱく質24.6グラム、鶏卵(全卵・生)はカロリー142kcal、たんぱく質12.2グラムとある。

すなわちイカは、ササミには劣るが鶏卵よりも豊富なたんぱく質を持つ、低カロリー、高たんぱくな海の食材といえる。ヘルシーな和食との相性も抜群なのがうなずける。

厚生労働省によれば、イカをはじめとする軟体動物や貝類などには、医薬部外品のドリンク剤の成分としてもよく利用されているタウリンが豊富に含まれている。このタウリン、コレステロールを減らすほか、心臓や肝臓の機能を高める、高血圧を予防するなどの効果が期待できるといい、まさに飲兵衛の心強い味方である。

立派なイカが並ぶパリのマルシェ

ここフランス・パリのマルシェでも、この時期になると鮮魚店の軒先に立派なイカが並び始める。当地でも年中通してイカ自体は売られているが、この時期に並ぶイカは大きさも種類も豊富だ。

筆者は、物心つく前より朝食に新鮮なイカ刺しを食べ、おやつにさきイカをトースターであぶってマヨネーズを付けて食す小学生時代を過ごし、ウン十年後の現在はパリのアパルトマンの窓際で創意工夫しながらイカを干している。そんな長年にわたる筋金入りのイカ好きゆえ、この季節は毎年心が躍って仕方ない。

フランスでも日常的にイカは食べられているが、生の刺し身や乾き物の形はほとんど見たことがなく、おおよそ加熱された形で食される。

中でも、アペロ(アペリティフ<食前酒>の略で、フランスにおける夕食までの時間を楽しく飲んで過ごす「ちょい飲み文化」を示す)の定番の一つが、beignet de calamar(ベニエ・ド・カラマール)。スペイン由来のイカ料理である。見た目はほぼイカリングなのだが、日本のイカリングよりも大抵衣ががっちりと厚く、生地自体に甘みがある。

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