日経ナショナル ジオグラフィック社

創造性を高めるには

自己認識を深めるだけでなく、創造プロセスのこうした側面を理解すれば、自分の脳が持つ可能性を様々な状況で最大限に発揮できるようになるかもしれない。

米ドレクセル大学の創造性研究室を率いる認知神経科学者のジョン・クニオス氏は、まず良質の睡眠を十分にとることが最優先だと話す。そうすれば、気持ちが明るくなり、記憶の助けにもなるという。睡眠中は「昼間に得た情報が、壊れやすい状態からアハ体験をもたらしうる強固な状態に変化します」と氏は説明する。

一晩ぐっすり眠った後だけでなく20分ほどの仮眠をとった場合でも、目覚めた直後には、眠りと完全な覚醒の間のわずかな時間に生まれる思考やアイデアに注意を向けるよう、クリストフ氏は勧めている。この時間はアイデアが「のびのびと駆け巡ることが多い」ので、潜在的な創造性を引き出せるのだという。

日中にDMNと創造的なアイデアを意識的に活性化するには、散歩や温浴、ガーデニングといった、認知的な努力をあまり必要としない活動を行うことだ。ただし、その際は音楽やポッドキャストは聴かずに、心がさまようままに任せよう。クニオス氏は、とりとめのない考えに浸るのは「心理的安全性が確保された状態、つまり奇抜な考えが浮かんでも危険でなく、すぐに片付けるべき課題がない状況にあるとき」にするよう勧めている(つまり、運転中にはお勧めできない)。

日中なら、ある程度の動作を伴う簡単で慣れ親しんだ作業をすることで、自発的な思考の流れが促されるだろう。例えば、シャワーを浴びているときは「なすべきことも多くなく、視界も限られ、ホワイトノイズに包まれています」とクニオス氏は言う。「このとき脳は、普段よりも雑然としたやり方で思考します。管理のプロセスは消え、連想のプロセスが活性化するのです。いくつものアイデアが跳ね回り、様々な思考が衝突したりつながったりします」

自然の中で過ごす時間が、畏敬の念とともにくつろぎをもたらし、マインドワンダリングにつながることは、複数の論文で示唆されている。「これは、自然空間いっぱいに関心が広がるからです」とクニオス氏は解説する。「自然の中で散歩すれば気分が改善し、かけ離れたアイデアや遠い昔の思い出にも思考が広がります」

新しいアイデアが欲しいときや問題を解決したいときには、まずは一生懸命に課題に取り組み、行き詰まったら休憩して散歩に出るといい。「そうすれば、意識して取り組んでいた仕事に、心が無意識のうちに対処できるのです」とクリストフ氏は言う。

重要なのは、「普段なら後ろめたく感じる別の思考モードに入れるように」十分な時間をかけて、こうした活動を行うことだとクリストフ氏は説明する。「生産的にならないように、ゴールを追い求めないようにするには、心を十分にリラックスさせる必要があります。習慣として日常的に行っている活動では、心をさまよわせても罪悪感をありません。こうしたときこそ、心が新境地を開拓することができるのです」

だから、思い切って仕事を離れ、定期的にマインドワンダリングや物思いにふける時間を作ろう。「このマルチメディア社会の弊害のひとつは、個人的な空想にひたる十分な時間がないことです」とスクーラー氏は指摘する。心にさまよう機会を与えることは、自分の創造性への投資であり、有意義な時間の過ごし方でもあるのだ。

(文 STACEY COLINO、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年8月16日付]