日経ナショナル ジオグラフィック社

ある研究では、認知的努力の違い(つまり能動的な作業かどうか)によって、DMNの活動や接続性が変わるのかを調べた。ボランティアの被験者たちに、認知的努力の要求度が高い作業(色に名前をつける)、低い作業(単語を読む)、認知的努力が不要な作業(休息)を代わる代わる繰り返してもらった。その結果、DMNは休息時に最も活発であり、認知的努力の要求度が高い作業よりも低い作業に取り組むときのほうが活発であることがわかった。この研究成果は2022年4月15日付で学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

この結果は、DMNは照明の調光スイッチのように、おそらく必要な認知的努力のレベルに応じて活動レベルを変化させられることを示唆している。

2022年1月1日付で学術誌「Molecular Psychiatry」に発表された論文では、DMNと創造的思考との関連性が示された。この研究は、覚醒下での脳外科手術を受ける患者を対象に行われた。こうした手術では、露出した皮質の表面のどこに言語機能をつかさどる部位があるかを特定できる。

患者は手術中、脳のDMNまたは別の領域に直接、電気刺激を与えられながら、身の回りのありふれた物(この実験では書類止めクリップ)について独自の用途を考案するよう求められた。これは、既知の情報から様々なアイデアを生み出す「拡散的思考」の能力を評価する方法だ。その結果、この課題をうまくやり遂げる能力は、DMNのノード間の結びつきの強さに左右されることが明らかになった。

「DMNは創造性の重要な源泉と考えられます。また、マインドワンダリングと関係があることは確実です」と、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の心理学者ジョナサン・スクーラー氏は話す。実際、2022年2月15日付で学術誌「Human Brain Mapping」に掲載された論文では、ポジティブで建設的な空想(計画の立案、楽しい考え、希望に満ちた鮮明なイメージ、好奇心など)は、DMNの活動や創造性と関連性があることが明らかにされている。

さまよう心がもたらす効果

ビーティー氏によれば、本人の自覚とは関係なく、人間なら誰でも日常的にマインドワンダリングを経験しているが、それにも複数の種類がある。自分の思考をある程度制御したり方向づけをしたりしようとする「意図的マインドワンダリング」と、本人が意図せずとも脳内で起きる「非意図的マインドワンダリング」だ。2021年1月に学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された論文では、脳波測定によって人間の脳活動を記録したところ、非意図的マインドワンダリングが起きている時間が全体の47%に及ぶことがわかった。

とりわけ、情報とアイデアの新たな組み合わせが生まれるのは、非意図的マインドワンダリングのほうだ。「心が問題から離れて空想の世界をさまよっているときこそ、創造的な思考が生まれるのです」とスクーラー氏は言う。「もちろん、時には問題と対峙しなければならないこともありますが、それが自然にアイデアが生まれる土台となるのです」

この過程は、しばしば「インキュベーション(ふ化)効果」と呼ばれる。課題や困難から離れた時間を過ごすことで、心はさまよいながら無意識の連想プロセスを経て新しいアイデアを生む機会が得られる。

スクーラー氏らは、人々がいつ斬新なアイデアを得ているのかを調べるため、プロの作家や物理学者に2週間の日記を書くよう依頼した。日記には、それぞれの日に思いついた最も創造的なアイデアと、そのアイデアが浮かんだときにしていたこと、そのときに「アハ体験」(「そうか!」とひらめく瞬間)を感じたかどうかを記録してもらった。

その結果、最も重要なアイデアの約20%は、本人が仕事以外の活動をしているときや、そのアイデアとは無関係な考えにふけっているときに生まれていた。この研究結果は、2019年に学術誌「Psychological Science」に発表された。さらに重要な点は、マインドワンダリングで生まれたアイデアは、行き詰まった難題の解決に結びついたり「アハ体験」を伴ったりする割合が高かったことだ。

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創造性を高めるには