本業は社会を動かす仕事、副業はエッジの効いた仕事
――逆に、兼業の仕事を本業に生かせた経験はありますか。
平松氏 兼業で別の仕事をしていることで、会社組織に忖度(そんたく)しすぎずに振る舞える側面はあると思います。別のコミュニティー、別の持ち場があることで、心に余裕を持って本業に向き合えますね。会社でやる仕事は社会を動かすマスの仕事、個人でやる仕事は小さくエッジの効いた(とがった)仕事という風に使い分けています。
――本業と兼業を両立する中で、報酬は目標としていたものが実現しているのでしょうか。
平松氏 金銭的報酬が半分、自己実現が半分という姿を常にイメージしています。高収入に全部振り向けるなら、あのまま法科大学院を出て、弁護士になれば良かったと思います。でも、自己実現をしたかったので、そうはしなかった。今は自分のやりたかった仕事で、自分の興味のあるテーマを通じ、世の中に貢献できている。この先は収入を増やすより、自己実現や社会貢献の割合を増やしたいです。
――今後は本業と兼業のバランス、あるいは金銭的報酬と自己実現のバランスをどのように考えていますか。
平松氏 今は長い目で見たときに、自分の蓄積になる仕事や活動を行いたいです。20代の頃はがむしゃらに働き、お金も自己実現も追求していたのですが、仕事を断れなくなってきていて、100点に満たない状態で成果物を出していると感じることも増えてきました。10年後、20年後に納得のいくバランスで仕事ができるように、今はインプットを優先しようと思い、留学しました。兼業の仕事は継続しているのですが、やり過ぎないのが当面の目標です。
いかがでしたでしょうか。平松さんのキャリア選択を振り返ると、以下のような特徴(図表2)がありました。

平松さんは個の仕事と組織の仕事を越境しながら、自分に向いているのは個の仕事だという確信を持ちました。そこで、個の仕事にフォーカスし、本業と兼業のバランス(スキル面での補完関係)、金銭的報酬と自己実現のバランスを実現しています。個の仕事でエッジを立てることの難しさもありますが、兼業することでキャリア形成を自由にするという選択肢もありそうです。
東京大学経済学部卒。生まれてこのかた日本は低成長で、バブル時代を知らない世代。A.T.カーニーのリーダーシップグループの一員として「日本の課題解決先進国化」に挑む。「創造と変革のリーダー輩出」のための社内の各種キャリア形成セミナーを主催。