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握力が低いほど認知症発症リスクは上昇

まず、握力と認知症発症、認知機能検査のスコアの関係を検討しました。認知症は、追跡期間中に「医師により認知症と診断された、あるいは死亡し、死亡記録に認知症という記載があったケース」とし、認知症全体と、アルツハイマー病、血管性認知症について分析しました。分析は男女別に行い、握力が5kg低下するごとの認知症発症リスクを推定しました。

握力が低いことは、認知症の発症と有意に関係していました。握力が5kg低下するごとに、認知症の発症リスクは男性で1.16倍、女性では1.14倍に増加していました。アルツハイマー病のリスクは1.11倍と1.13倍、血管性認知症のリスクは1.23倍と1.20倍になりました。

記憶と知能という2種類の認知機能について評価する検査のスコアも、握力が5kg低下するごとに有意な低下を示しました。

続いて、脳の構造と握力の関係について検討しました。頭部MRI検査を受けていた3万8643人の男女を対象に分析したところ、握力と全脳容積および海馬の容積の間には有意な関係は見られませんでした。しかし、認知機能障害との関係が示されている大脳の白質病変の容積は、握力が5kg低下するごとに、男性で92.22立方ミリメートル、女性では83.56立方ミリメートル大きくなっていました。

著者らはさらに、対象者を試験参加時点で65歳未満だった集団と65歳以上だった集団に分けて、認知機能検査の結果、MRI検査の結果と、握力の関係について分析しましたが、結果は同様になりました。なお、認知症発症との関係については、65歳未満の発症者が少なかったため、中年期の人々を対象とする分析は行えませんでした。

今回得られた結果は、中年期からの男女両方において、握力に代表される筋力が高い人のほうが、その後に認知機能に問題が生じるリスクが低いことを示しました。中年期の筋トレは、将来の認知機能の維持に役立つ可能性が示されたといえます。

[日経Gooday2022年9月9日付記事を再構成]

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

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