白い恋人:北海道土産からDNA引き継ぐ「イシヤパンケーキ」

日本の銘菓、3つ目は北海道の「白い恋人」だ。1947年創業の石屋製菓(札幌市)が46年前に開発した。ラング・ド・シャ(極薄のクッキー)に、チョコレートを挟んだ菓子だ。百貨店の催事などを除いては、道内でしか販売していないもので、北海道土産の定番ともいえるもので、全国的な認知度は抜群ではないだろうか。繁忙期は1日140万枚を製造するそう。コロナ以前は中国人観光客にも大人気で、彼らが北海道を訪れる際、飛ぶように売れていたそうだ。
同社も新しい試みを続けている。2016年には初めて北海道外に出店。「ISHIYA―G」という新ブランドで、銀座を皮切りに東京と大阪に全5店舗を展開した。ここには「白い恋人」はないが、「白い恋人のDNAを受け継ぐ」という「サク ラング・ド・シャ」を販売中だ。チーズ・ミルク・塩・ワインなど北海道産の食材をチョコレートやクッキー生地に使った菓子で、商品そのもののおいしさと、美しいパッケージがうけて爆発的にヒットしている。新型コロナウイルス禍前までは女性客が長蛇の列を作り、即日完売状態が続いていた。

19 年には東京・日本橋の商業施設「COREDO室町テラス」にカフェ「ISHIYA NIHONBASHI」をオープン。「白い恋人」と同じチョコレートや北海道産牛乳を使ったソフトクリームやパフェが並んでおり、ここでもヒットを生み出す。スタッフが提供時にするっと筒を抜くと、花が開くように生クリームが流れる「イシヤパンケーキ」だ。多くの女性客が相次ぎ投稿し、メディアでも取り上げられ、行列ができた。
コロナ禍の旅行自粛で土産物需要が激減、大打撃を受けたことで、同社は21年に新たな施策を打ち出す。「白い恋人」発売以来初めて、他社とのコラボを企画した。森永乳業と開発したチョコレートドリンクやアイスクリームは購入した客がこぞってSNSに投稿した結果、評判となって販売増へつながった。
46年前に生まれた人気商品から新機軸を打ち出し、令和になっても世を沸かせ続ける姿には感心させられる。

今回紹介した銘菓3社の菓子は、いずれも知名度は十分にあり、正直「黙っていても売れる」ものだが、定期的に思い出してもらうための仕掛けがすごいと思った。
取材して3社とも声をそろえていたのは「斬新すぎて老舗のブランドイメージを逸脱してはいけない」し、逆に「ありきたりでは世の中に驚きを起こせない」というジレンマだ。どこでバランスを取るかが難しく、正解は誰にも分からない。手探りで挑戦するしかなく、それを続けてきたからこそ、50年100年と息切れせずに勝者であり続けているのであろう。
(フードライター 浅野陽子)