われわれ日本人は、欧米人に比べ「周りの空気を読みながら会話する」タイプが非常に多いと言われます。リモートでのウェブ会議となると「周りの人がどんなふうに反応しているか」「相手の真意がどこにあるのか」がキャッチしにくく、言いたいことや尋ねたいことがあっても、発言を躊躇(ちゅうちょ)してしまう人が少なくありません。
またリモートワークは、出社勤務と比べると、雑談の機会も激減します。そのためもともと付き合いの長い同僚は別として、新たに配属になった人や新人との仲が深まらず、信頼関係がなかなか構築できません。
例えば、ある社員は、「自分は人付き合いが好きなタイプなのだが、リモートワークでは画面に映っていない場所に誰がいるか分からないため、仕事以外の話題が気軽に口にできないし、冗談ひとつ言えない。異動して1年たっても同僚と親しくなれず仕事がやりにくくてたまらない」と話していました。
筆者が遭遇したメンタル不調者の例でも、以下のような方がいました。
「仕事で分からないことがあっても気軽に尋ねることができず、ついつい仕事を抱え込んでしまい、進捗(しんちょく)が遅れがちになった。次第に上司から注意を受けることが増えて、憂鬱になっていった」という新入社員。
「新規プロジェクトでグループリーダーに抜擢されたが、メンバーのほとんどが初めて組む人だったため、ウェブ会議だけだと意思疎通がうまくいかず、小さなトラブルが多発して眠れなくなった」という中間管理職。
このように、新入社員や部署に異動して日が浅い人ほど、リモートワークでのコミュニケーションにストレスが蓄積しやすくなる傾向があるため注意が必要です。
仕事をし過ぎる社員が続出
デメリットその2:ONとOFFの切り替えがうまくいかず、緊張が解けない
長時間労働が発生しやすい職種においては、リモートワークによって通勤時間のロスがなくなったと喜ぶ社員もいる半面、「いつまでも仕事から離れられない環境」にいることによって、体調やメンタルの調子が悪化する社員も少なくありません。
IT関連職のある女性社員は、都内で一人暮らしをしていました。納期が立て込んでしまい、朝から深夜までパソコンに向かいっぱなし。外出は数日に1度の食料の買い出しだけという生活を1カ月ほど続けた結果、めまいや吐き気、不眠、頭がぼーっとして集中できないなどの症状が出現してきました。
筆者が面談したところ、「会社だと終電があるので、いくら仕事が立て込んでも自宅に戻ることでリラックスできていた。しかしリモートだといつまでも際限なく仕事ができてしまう。仕事のことが頭から離れなくなり、常に緊張が続くようになり、次第に眠れなくなった。最近はパソコンに向かうのが非常につらい」と訴えます。
彼女を心療内科に紹介したところ、「自律神経失調症」の診断名で即休職となりました。
このケースによく似た、「リモートワークによってONとOFFのメリハリがなくなったことにより、自宅でも緊張が解けず不眠や体調不良になる社員」に筆者は他にも複数名遭遇しました。
彼らに共通していたのは、本来リラックスするはずの自宅で仕事をすることになり、気分転換ができなくなって緊張が解けなくなること。そして、通勤での歩行という有酸素運動の機会も消失してしまうことで、自律神経のバランスが崩れてメンタル不調や体調不良が発生したという点でした。