
ドゥルーズ「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂、D&I)施策でも『取締役会に女性を入れよう』という人がいます。女性がいさえすれば『ダイバーシティを実現している』と。でもそれだけでは不十分です」
「例えば今、社内にいる妊娠中の女性が取締役会で影響力を発揮する立場になるまでには十数年かかります。それまで現場レベルで施策を打ち続けることが必要なのです。育児休業をとった女性が復帰したときに、育休前と同じ職場・同じ仕事でキャリアを積める環境を整えたり、子どもの世話をしやすい働き方を実現したりする。様々な視点から女性のキャリアにとって何が必要かを考えるべきです」

カップ「日本企業にコンサルティングをする立場として心配なのは『日本企業は女性を差別している』というイメージが海外で広がってしまっていることです」
「米国人に『日本でコンサルティング事業をしている』と話すと『女性の君がどうやって日本企業と仕事をするんだ』と言われることも少なくありません。日本企業に買収された米企業の女性役員から『日本企業は外国籍女性と働きたがらないと聞くので、会議を欠席すべきか』と相談されたこともあります。そのたびに否定しますが、そう信じられているのです」
ドゥルーズ「日本で働いていると『外国人は特別』という日本人の意識は感じますね。外国人というだけで『変わった人』と思われてしまうこともある。これはとても孤立した気分になります」
カップ「日本企業にはD&IのI、インクルージョンが欠けているように感じます。外国人社員にも日本人同様の振る舞いを求め、異なる言動をすると反発する。多様性を高めるだけでなく、いかに個性を認め合い、心理的安全性を確保するかが重要です」
ドゥルーズ「そうですね。また日本企業は外国籍女性を高い賃金で役員クラスに招きますが、日本の大学出身の学生など、もっと若い世代を採用していくべきです。文化や語学の壁は低く、組織へなじみやすい。働き手にとっても若いうちから人脈を構築できるメリットがあります」
カップ「それは大事なポイント。日本に深く関わり、語学スキルも優秀な若い外国人はたくさんいます」
ドゥルーズ「一方で、日本企業の様々なアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が多様な社員の活躍を阻んでいる、と感じることもあります。以前、社内で実行した構造改革やビジネスプランを取締役会で紹介したところ『素晴らしい。西洋的な考え方を取り入れたんですね』と褒められたことがありました。でも発案者は現場の日本人社員でした」
「日本の社員は優秀で自由な発想を持っている。でもアンコンシャス・バイアスにより、能力を発揮する機会が失われてしまう危険性があります。その思い込みを取り除けばいいのです。日本はD&Iを実現する旅の途中にもかかわらず、世界第3位の経済大国。つまりポテンシャルがあるのです。日本の良さにD&Iを取り込めば素晴らしい影響を世界に与えられます」
カップ「その通り。『従業員はこうあるべきだ』という考えを抜け出せれば、大きな効果が期待できるはずです」
ドゥルーズさん、カップさん共にD&Iの課題について「日本に限った問題ではない」と繰り返していた点が印象的だった。一方で「日本は他国と比べ特に深刻」という指摘も。今後、優秀な人材の奪い合いは国家間で激化するだろう。多様な人材が働きやすい環境づくりを各国が推し進めるなか、日本企業も早急に施策を講じなければ世界に後れをとることになる。
2人が指摘していたように日本は経済力と人材力の両面で「ポテンシャルのある国」ともいえる。柔軟にD&Iに取り組むことが、今後世界でのプレゼンスを高めるポイントとなるのだろう。
(大竹初奈)
[日本経済新聞朝刊2022年11月28日付]