
日本の政治の中心ともいえる東京・永田町に隣接する赤坂には料亭がひしめき夜の政治の舞台ともいわれる。その赤坂で、看板は目立たず、知らなければ素通りしてしまいそうなほどひっそりたたずむのが「肉割烹 京」だ。接待需要が中心の完全予約制の割烹(かっぽう)だが、敷居は低くカジュアルな感覚で利用できるのが魅力だ。
「私は自分のことを料理人とは思っていません。お客さんをおもてなしする人だと思っています」。山本剛士店長の言葉にこの店の特徴が集約されている。それは、主な顧客が政治家や企業の管理職などで接待や商談などを目的とした人が多いからだけではない。「料理のおいしさはもちろんですが、来店されたお客様に喜んでもらうことがなにより大事」と考えるからだ。

料理はコースのみ。ランチ2種類、ディナーで8種類を用意する。厨房の山本店長のほか、1~2人のホールスタッフで店を切り盛りする。カウンター席、個室4部屋のこぢんまりした店だ。客席は厨房の山本店長の目の届く範囲に配置されている。「ホールスタッフもお客さんに常に気を配り、次に何をしてほしいのかなどを先回りして考えるようにしている」(山本店長)。接待をする側にとっては、頼もしい店だ。

もちろん料理にもこだわる。一番人気のコース「京~KYO~」(税込み1万6500円)には、店自慢の料理が並ぶ。「ヒマラヤ産天然あみたけ ~森のレバ刺~」はキノコだがその味、食感はレバーそのものという。「黒毛和牛リブロースのレアカツ」は薄い衣でサクッと揚げ、断面をロゼ色に仕上げた牛カツ。「肉のいろいろな部位をいろいろな食べ方で楽しんでもらいたい」ということからそのほかにも「和牛ランプ肉のタタキ」「黒毛和牛サーロインの炭火焼」など肉料理が並ぶ。使用する牛肉は黒毛和牛だ。
デザートの前に出される「厳選米の土鍋ご飯」に使うコメは産地を限定せず新米などその時々で一番おいしいコメを使用している。

和食とはいえ肉を中心とした料理が多いことから、なかにはコースの途中でおなかがいっぱいになってしまう顧客もいる。そうした場合には別メニューを提供するほか、お弁当やおにぎりなどにして「お持ち帰り」してもらっている。
こうした顧客ファーストの姿勢はワインメニューにもあらわれている。普通、ワインメニューは産地や値段順に並べていることが多いが、この店では「重さ」順だ。ワインに詳しくない顧客にも選びやすいよう配慮した。
場所柄か他のお客さんにわからないように出入りできる個室もある。
接待需要中心で外国人ビジネスパーソンのファンも少なくないが、常連は「ご主人の個人店のようだ」と口をそろえる。このギャップがこの店の魅力といえそうだ。
※この連載は今回で終了します。