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2022年4月から改正育児・介護休業法が段階的に施行される。育休ライフを体験する男性が増えていきそうだ。新生活が始まる春は、暮らし方を見直す好機。共働き家庭のなかには子どもの入園・入学のほか、夫婦のどちらかが育児休業から職場に復帰といった場合もあるだろう。夫婦でキャリアを紡ぎながら豊かな子育てライフを送るには、どんなヒントがあるだろうか。男性の子育て・家事支援やワークライフバランス、夫婦のパートナーシップ応援など様々な活動を展開しているNPO法人ファザーリング・ジャパン(東京・千代田)の創設者でもある安藤哲也代表理事に、共働きパパへのアドバイスを聞いた。

実父が反面教師 べき論ではなく「父親を楽しむ」

――ファザーリング・ジャパンでは「笑っている父親になろう。」と呼びかけています。07年の法人設立(団体設立は06年)から15年となりますが、父親像について、どんな思いがあったのですか。

安藤さん(以下、敬称略) 私にとって父は反面教師でした。家庭での父の姿を一言でいえば「不機嫌な人」。夕方に帰宅しても家事は一切手伝わず、「料理がまずい」など母にキツい言葉を浴びせることも。父が自宅にいると家族は顔色をうかがっているという感じでした。ところが友達の家に遊びに行って、それが「当たり前」ではないと気づいた。中学生の頃から「自分が将来結婚して子どもができたら、あんな夫・父親にはなりたくない」とずっと思っていました。

1997年に(第1子となる)娘が生まれた当時、日本の社会には男女の役割分担意識がまだ強くあって、父親は育児をしない・しなくていいという雰囲気だったと思います。けれど、私は「育児をやりたい。やった方が多分、自分も成長できるし、もしかしたら父親を楽しむことで、何か違う地平が見えてくるんじゃないか」といった直感がありました。

とはいえ、当時は子連れで公園や図書館に出かけても男子トイレではおむつ替えができないといったインフラ面や、職場のムード問題も。いろいろモヤモヤしながら乗り越えてきました。それでも、育児に消極的なパパにはやっぱり、「育児は大変なことも多いけど、父親ってスッゲー楽しいんだぜ」と伝えたい。

社会環境が変わったのに、古い父親モデルを自分のOS(基本ソフト)としてインストールしちゃって無意識に彼らと同じことをやっているパパがまだいっぱいいるんだと思います。それをリセットというか、アップデートするために、私たちは研修とかセミナーとかの活動をやっています。私や同じ思いの仲間が自分の家でやってきたことに汎用性を持たせて、後輩たちに「育児を楽しむ方法」を伝えているのです 。

活動当初から、「『育児をやりましょう』とか『やるべきだ論』にしたくない」と考えていたという安藤代表理事

活動当初から、「『育児をやりましょう』とか『やるべきだ論』にしたくない」と考えていたという安藤代表理事

今は育休にしろ、多くの人がまだ「取ったら損」と思っている。収入の損、キャリアの損とそんな風に考えているのではないでしょうか。

けれど、長い目で見たら、家族の絆が深まるとか、しんどいと思っていた仕事が別の視点で眺められるようになって意外と楽に思えたり、やりがいが分かったり、また妻の偉大さ、自分の母親に対するリスペクトとか、妻が働き続けたいのであればそれを応援する気持ちとか、いろいろな気づきが出てくる。これらは育休を取った人がよく実感することです。プラスは決して少なくないと思います。

家事や育児も仕事も一緒 主体的にやれば楽しくなる

――経済協力開発機構(OECD)の調査(20年)によると、家事・育児などの無償労働に携わる1日当たりの時間は日本の場合、男性41分に対して女性224分です。女性は男性と比較して5.5倍とOECD平均の1.9倍を大きく上回っています。男性の家庭参加を促すうえでも、家事や育児を父親が「楽しい」と思えるようにするには、何が必要でしょうか。

安藤 仕事も勉強もスポーツもそうですが、自ら企画して工夫して人を巻き込んでいくからこそ「面白い」となる訳ですよね。仕事だって、人に言われたことだけをやっているうちは「ライスワーク」で給料をもらうための「作業」にすぎず、自分の成長も実感できないので面白くないはずです。

家事や育児も同じだと思うんです。主体的に取り組むようになれば「自分ごと」になって成長を感じて、面白くなる。けれど現実には、「主担当」はママ(妻)、パパ(夫)は手伝えるときだけやればいいみたいな「副担当」と認識している人が多い。

「『家事を手伝おうか』って言っちゃ、ダメなんですか?」と聞かれたことがあります。これはママからすればNGワードですよね。たとえば、職場で同じ業務を担当している後輩に「手伝いましょうか」って言われたら、違和感を覚えませんか。違う部署の人が言うなら分かります。それと同じです。ママが家事と育児であたふたしているときにパパが「手伝いましょうか」と言ったらヘンでしょう。

やる気や能力の問題ではない 父親像のOS、アップデートを

安藤 「やらされ感」や「義務感」でやっているうちは、面白いはずがない。自分の子どもなんだから、父親も主体的に育児をする。自分の家なんだから、夫も家族が気持ちよく暮らすために家事をやる。当たり前ですよね。

先ほども申しましたが、まだ多くのパパたちにとって父親像のOSが古いんだと思います。やる気とか能力の問題じゃなくて、「男は仕事、女は家事育児」「自分は副担当」という思い込みがあるから楽しめない。

セミナーなどで呼ばれたときは、「そのOSをまず入れ替えよう。だって、パソコンで作業をするときだって、OSを最新のものに入れ替えるでしょう?」と話します。こういうビジネスワードを使って、男性から男性に伝えるとけっこう響くのです

ただ、強制は絶対しないです。その人の人生だから。パパ向けセミナーでは、家事や育児をやった場合のメリット・やらなかった場合に起こりうるデメリットを伝えるようにしています。それを知ってもらったうえで、「自分はどうしたいか」「なぜ結婚したのか」「なぜパパになったか」と考えてもらう。そうしたことを自分で考えないと、たぶん副担当ポジションから抜け出せないのだと思います。

そもそも「働く」とは、「傍(はた)を楽にすること」ですよね。家事が家で働くことだとすると、妻ばかり家事をやっていた家庭で、夫が家事を当たり前にやるようになれば妻は楽になる。楽になれば楽しいから笑顔になる。ママが笑顔になれば子どもも笑顔になる。その方がパパにとっても「帰りやすい家」になりますよね。

せっかく35年のローンとか組んでマンションを買うなどするなら、1分でも早く帰りたい家にしないのはもったいない。我が家をアウェーにしないためにも、脱・副担当で主体的にやることをおすすめします。

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