特集の皮切りとして、日本が誇る最高峰の洒落（しゃれ）者に“一生定番論”をたっぷりと語っていただいた。人生を共にできるほどの名品、その定義とは？ 鴨志田さんの話から、3つのキーワードが見えてきた。
Yasuto KAMOSHITA
Profile 1957年生まれ。自らのブランド「カモシタ」に加え、ポール・スチュアートの日本におけるディレクターも務める。当代きってのウェルドレッサーとして知られるほか、建築、アート、食などライフスタイル全般に通じる真の粋人。
01. 自然体でいられること
鴨志田さんの一生大定番ブランド（1）
■LIVERANO & LIVERANO（リヴェラーノ＆リヴェラーノ）
1994年に鴨志田さんが初めて仕立てたリヴェラーノのブレザー。がっしりとした英国生地が用いられ、25年以上の時を経て今なお美しい立体美を描き出している。リヴェラーノは時代に応じて作風を変化させることでも知られ、こちらは幅広の肩とラペルが印象的だ。
なじみのそば屋のように居心地よく過ごせる服。
――それは自身のライフスタイルにおいてかけがえのない存在になる
この取材依頼をいただいたとき、どんな内容でお答えしようか、かなり悩みました。今回ご紹介する3ブランド以外にも、僕にとっての定番は数多く挙げられます。ですので予想を裏切るようなセレクトをしてみようかとも考えましたが、「鴨志田康人の一生大定番」というテーマへ真剣に向き合い、改めて考えてみると、やはりここで選んだ3つということになります。ひとつめはリヴェラーノ。いわずと知れた、サルトリア・フィオレンティーナの代表格です。僕が初めて訪ねたのは'91年ごろ。マロの創設者であり、イタリア屈指のウェルドレッサーで鳴らしたアルフレッド・カネッサさんを通して、その存在を知りました。まだクラシコイタリアブームが盛り上がる前のことでしたね。そして'94年、初めて上のブレザーを仕立ててもらい、以来今に至るまで懇意にしています。
リヴェラーノ以前には英国でビスポークを経験し、以後も世界の様々なテーラーで洋服を仕立てていただきましたが、経験を重ねるほど、マイ・テーラーはリヴェラーノだと確信するようになりました。その理由を一言でいうなら、「自分が最も自然体でいられる服」だから。燕尾（えんび）服を着て軽やかに踊るフレッド・アステアの姿が象徴するように、「スーツはTシャツのように着こなしてこそ格好いい」というのが僕の持論。そうした観点から見て、リヴェラーノほど自分にフィットした服を仕立ててくれるテーラーはいないのです。エドワード グリーンよりもオールデンが似合うスーツ、といったら語弊があるかもしれませんが、格式や威厳を第一義とする仕立て服が多いなかで、リヴェラーノは明らかに異彩を放っていると思います。最高級のクラフツマンシップを宿した服でありながら、着るとなじみのそば屋を訪れているときのような安心感を覚えるのです。着心地がいい、というより「居心地がいい服」ですね。
テーラーとは、いうなれば彫刻家です。注文主をどうすれば魅力的に見せられるかイメージし、その人に最もふさわしい造形美を服に託して描き出す。そして鴨志田康人という個性を最も引き立ててくれる服を彫刻できるのは、リヴェラーノの当主アントニオをおいてほかにいないと思います。彼を知らなかったら、今の自分は何を着ていたか……彼と出会えた幸運には本当に感謝しますね。
コロナ禍によって、ここ2年ほどはリヴェラーノにも通えずにいます。そうすると、生活のリズムが狂うほど恋しくなる。同時に、やはりリヴェラーノは自分の一生大定番だと再認識しています。行きつけのレストランのように、いつ帰ってきても全幅の信頼をおけて、常に安心と満足をもたらしてくれる。自分らしく、どこまでも自然体でいられる。そんな服こそ一生大定番と呼ぶにふさわしいと思います。 （談・鴨志田康人）
合物の定番ソラーロをニットタイで軽やかに
合物（季節の狭間）の定番として鴨志田氏が愛用するリヴェラーノのソラーロスーツに、次頁以降で紹介するシャルべのシャツタイとオールデンの靴を合わせて。「ソラーロのスーツは、'90年代初頭にイタリアの洒落者たちが着ていたことで興味をもちました。真冬と真夏以外の比較的長いシーズンに着用できて、色に独特の深みがあり、英国発祥という歴史的背景も備えた魅力的な生地です」
秋冬の定番グレーフランネル
「男にとって、フランネルのスーツは特別なロマンを感じさせる服。それをリヴェラーノで仕立てられることに幸せを感じます」と鴨志田氏。中でもダブルブレストのそれは氏を象徴する一着だ。
春夏の定番シアサッカー
夏のピッティでもしばしば目にする、シアサッカースーツ姿の鴨志田氏。「根がアイビーなもので、シアサッカースーツは私にとって欠かせないアイテムですね」
