古代ローマの小さなお宝に見る 2000年前の日常

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

紀元前2世紀または3世紀の装飾品。ギリシャ神話に登場する神プロメテウスが椅子に座り、骸骨に腕をつけて人間を造っている場面が彫刻されている。プロメテウスは、粘土から人間を作り、神々に逆らって火を盗み、それを人間に与えたと信じられていた(IMAGE COURTESY OF THE TRUSTEES OF THE BRITISH MUSEUM)

有名な円形闘技場コロッセオが代表するように、古代ローマの遺跡は優れた工学と建築で知られている。しかし現代の考古学者たちは壮大な建築物だけでなく、小さな日用品も数多く発見している。

こうした日用品は、2000年以上前の人々がどのように神々を礼拝し、お金を使い、ご馳走(ごちそう)を食べていたのかといった当時の生活をうかがわせてくれる。ささやかだが、それでいて魅力あふれる古代ローマの遺物を紹介しよう。

神と女神

古代ローマの神々の多くは、ギリシャ神話の流れをくんでいる。ローマ人は、神殿に祭られている60以上の神々と、そのほか無数の半神半人が、日々の生活で起こるあらゆる事象を形づくっていると信じていた。

なかでも、生命のあらゆる側面を見守る天空の神ユピテル(ジュピター)、最高位の女神として女性の生をつかさどるユーノー(ジュノー)、そして知恵の女神ミネルウァ(ミネルバ)はカピトリヌスの三神と呼ばれ、ローマで最も重要な神とされていた。帝国が領土を拡大すると、古代エジプトのイシスやペルシャのミトラなど、他の多くの文化の神や女神たちも崇拝の対象に加えられた。

海の化け物を槍(やり)で突き刺すネプチューンの大理石像。海神ネプチューンは、地中海を取り囲む帝国にとって重要な意味を持っていた(PHOTOGRAPH BY ROMAOSLO/GETTY IMAGES)

芸術

古代ローマの美しい大理石の彫像を見ると、優れた芸術的才能と高度な専門性に驚かされる。そしてその才能は、宝飾品や楽器など普段使いの小物の制作にもいかんなく発揮されている。

ギリシャやエトルリアの影響を受けたローマの職人たちは、特に金、銀、そのほかの金属細工に秀でていた。その技術は数世紀にわたって、父から息子へ、師匠から弟子へと受け継がれていった。

ヘビの形をした金の指輪。紀元前1世紀、栄華を極めたプトレマイオス朝の末期に、エジプト貴族の誰かの指にはめられていたのだろうか(PHOTOGRAPH BY HEINI SCHNEEBELI/BRIDGEMAN IMAGES)

軍隊

ローマ帝国では伝統的に、軍隊に所属できるのは地主だけだった。しかし、時とともに地主階級が縮小し、だんだん傭兵(ようへい)による補助部隊に頼るようになったため、ローマ市民であれば誰でも入隊できるように制度を変更した。すると多くの貧しい市民が、征服先で戦利品の分け前にありつこうと、入隊を志願した。

ローマ軍は、文化的同化も助長した。征服先の住人も、ローマ軍に入隊すればローマの市民権が与えられ、それに伴う財産所有、結婚、投票、そして選挙に立候補する権利までもが、恩恵として与えられた。ただし、市民権を得るためには25年以上従軍しなければならなかった。

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