習慣的な飲酒 少量でも脳に悪影響を及ぼす恐れ
1日にビールのレギュラー缶1本(350mL、純アルコール14g程度)前後の量であっても、習慣的な飲酒は脳に悪影響を及ぼす恐れがあることが、英国の中高年者約3万7000人を対象とした研究[注1]で示されました。
少量の飲酒も脳に悪影響? 結果は相反していた
日常的な大量飲酒は、心血管疾患(脳卒中や心筋梗塞)や栄養不足、がん、老化などのリスクを高めることに加えて、脳の構造の好ましくない変化とも関係することが知られています。ただし、少量から中等量の飲酒が脳の構造に悪影響を及ぼすかどうかは明らかではなく、これまでに行われた研究では、相反する結果が得られていました。
そこで、米ウィスコンシン大学マディソン校のRemi Daviet氏らは、英国で行われている長期にわたる観察研究「UKバイオバンク」から大規模なデータを得て、精度の高い分析を行うことにしました。
UKバイオバンクは、2006年から2010年にかけて40~69歳の50 万人を全国から募集し、さまざまな検査や測定を行って、その後の健康状態を追跡しています。参加者からは質の高い頭部MRI画像も得ており、世界最大規模の脳イメージングデータを研究者たちに提供しています。
今回は、イメージングデータに加えて、飲酒習慣などの必要な情報がそろっていた3万6678人分のデータを分析対象としました。女性が52.8%で、女性の平均年齢は63.09歳、男性の平均年齢は64.42歳でした。2006人の女性と899人の男性は非飲酒者で、それらも含めた全体の日常的な飲酒量の平均は、女性が1日0.87単位、男性は1日1.49単位でした[注2]。
[注1]Daviet R, et al. Nat Commun. 2022 Mar 4;13(1):1175.
[注2]英国における飲酒量の1単位は、純アルコール8g。日本の厚生労働省は、純アルコール20g程度を1日の適量としている。
純アルコール8gを超える飲酒者は灰白質などが縮んでいた
MRI画像に見られる脳の灰白質全体の体積と白質全体の体積は、飲酒量が増えるほど小さくなっていました。結果に影響する可能性のある要因(年齢、身長、性別、喫煙歴、社会経済的地位、遺伝的な背景など)を考慮した分析を行ったところ、1日に1単位(純アルコール8g)を超えて飲酒する全ての人において、それらの体積は有意に減少していました。男性、女性を分けて分析しても、同様の結果になりました。飲酒なし、または1日1単位以下の場合は、有意な変化は見られませんでした。
灰白質については、全灰白質のほぼ90%の領域の体積に飲酒は悪影響を及ぼすことが示唆されました。部位別に体積の減少と日常的な飲酒の関係を検討したところ、前頭葉、頭頂葉、島皮質、側頭部、帯状回、被殻、扁桃体、脳幹で、それらの関係は強力でした。
続いて、白質の微細構造と飲酒の関係について検討したところ、飲酒量が増えるにつれて、白質の微細構造が不健康な状態になっていました。具体的には、神経線維が集まって走行しているいくつかの部位に、飲酒による統合性の低下[注3]が見られました。
今回の研究結果は、英国人においては、性別に関わりなく、1日に1単位を超える飲酒の継続は脳のマクロ構造(脳全体または各部の体積)と微細構造(白質統合性)に好ましくない変化をもたらす恐れがあること、飲酒量が増えればその関係は強力になることを示唆しました。
[注3]MRI画像に基づく分析において、神経線維が一方向に整然と走行し、適切に髄鞘化されている状態を「白質統合性が高い」と見なす。
[日経Gooday2022年4月20日付記事を再構成]
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
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