日経xwoman

四本 自身の経験から「男女の能力や思考には差がある」と実感している人は多いかもしれません。しかし、その「自分の経験」も、今の社会に形づくられたもの。脳で見つかっている男女差と、社会・教育における男女差とを比べれば、後者のほうが明確です。自分が実生活で感じている「男女の言動の差」は、「脳に由来するのではなく、社会がつくった差ではないか」という視点を持つことが大切だと思います。そうして、社会や教育における男女差を埋めていくことが、幅広い個人差を尊重するインクルーシブな社会につながるのではないでしょうか。

性別ではなく対個人でコミュニケーション

―― 職場で異性の上司・部下や同僚との関係に悩んでいる人にとって、「うまくいかないのは男女の脳が違うせい。だからこんな言葉をかけよう」という主張は、納得感があるのかもしれません。

四本 職場で、「こういうふうに話すとコミュニケーションが円滑に進みます」というアドバイスは、プラクティス(実践)としては有効だと思います。ただそれは、性別ではなく対個人で考えるべきではないでしょうか。「女性だからこういう風に対応すべき」という考え方を、会社の上層部が持ってしまうと、今ある男女差は固定化され、より強化されてしまうでしょう。

「女性は細やかな気配りができる」は本当か

―― 職場においては、「女性は細やかな気配りができるから○○の仕事に」「女性ならではの感性を生かして□□の仕事を」といった表現も聞かれます。女性が昇進する分野は「4R」(PR、IR、HR、CSR)が多いという指摘もあります。

四本 確かに、実際、家事育児を担っている人の多くは女性であり、当事者でないと気づかない点、経験者でないと持てない視点はあるでしょう。それを「細やかな気配り」「女性ならではの感性」と表現しているのかもしれません。

四本 ただ、問題は、その役割に性別による偏りがあり、それは社会構造がもたらした偏りであるということです。

―― 女性が全員、生まれつき気配り上手で感性豊かとは限らず、後天的に習得している可能性もあるということですね。

四本 そうですね。「女性だからこう」という発想のままでは、いつまでたっても女性は限られた職域から出ることができません。能力のある人に適切なチャンスを与えられていないのだとすれば、それは企業にとって損失です。仕事を割り振る際は、性別よりも幅広い個人差を見て、適性を見極めてアサインすべきではないでしょうか。

男も女も同じように働け、と言いたいのではありません。男女問わず、就職して働きたい人もいれば、家庭内の労働を好む人もいます。家族で話し合って、専業主婦(主夫)という分業スタイルが最善だと判断したなら、その選択は尊重されるべきです。望んだオプションを選べる機会が、男女に等しく与えられる社会になればいいなと思っています。

(取材・文 久保田智美=日経xwoman編集部、写真 鈴木愛子)

[日経xwoman 2021年12月9日の記事を再構成]

【参考文献】
*Coutrot A, et al. “Global Determinants of Navigation Ability” 2018;Current biology: CB 28(17).