「女性ならではの感性生かして」はNGワード?問題点は

日経 X woman

「男女の脳は異なるから、得意なことや考え方も異なる」――。こうした「男性脳」「女性脳」に基づく主張に対して、「科学的根拠に乏しい。性別による差よりも個人差のほうがはるかに大きい」と反論するのが、東京大学大学院教授で脳を研究する四本裕子さんだ。後編の今回は、社会や教育におけるジェンダーバイアスが個人の脳や行動に及ぼす影響について聞いた。

社会や教育の男女差に、脳が影響を受けている可能性

―― 日経xwoman編集部(以下、略) 前回「『男性脳』『女性脳』に根拠はあるか 性差より個人差」で、脳は性差よりもはるかに個人差のほうが大きい、という話を聞きました。それでも、実生活で、「男性と女性では言動や思考に違いがある」と感じている人はいると思います。その理由は何だと考えられますか。

東京大学大学院総合文化研究科 教授 四本裕子さん(以下、四本) 前回お話ししたように、脳は大人になってからも、社会や教育などからさまざまな影響を受けて変わっていきます。脳の男女差にはさまざまな要因があり、1つの因果関係で説明することはできません。

その中でも見逃せないのは、社会や教育に存在するジェンダーギャップです。私たちの社会には、企業の役員比率、働く人の賃金、大学の理系学部への進学率……など、いたるところにジェンダーギャップがあります。こうした社会構造に、脳や、個人の行動・思考が影響を受けている可能性は否定できません。

「脳の機能・構造」は、「社会・教育」や「行動・思考」からの影響を受けて変わっていくと四本さん

女性の社会進出が遅れている国は、空間認知能力にも大きな差

四本 例えば、男性のほうが優れているとされる「空間認知能力」。2018年に世界各地の250万人を対象に行われた研究によれば、世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数の順位が高いノルウェーやフィンランドでは、男女の空間認知能力に大きな差がなく、女性の社会進出が遅れている国ほど、空間認知能力の男女差が大きい傾向にあることが分かりました。社会構造が、男女の能力差と相関していることを示唆する例です(*)

ジェンダーステレオタイプが存在する社会では、人はそのステレオタイプを内面化し、「自分の性別にふさわしくないとされる行動」を選ばなくなります。社会や教育における大きな男女差を、教育界も、企業も一緒になって、少しずつ埋めていかなくてはなりません。

四本裕子さん(よつもと・ゆうこ)
東京大学大学院総合文化研究科 教授
東京大学卒業後、米国ブランダイス大学大学院でPh.D.を取得。ボストン大学およびハーバード大学医学部付属マサチューセッツ総合病院リサーチフェロー、慶応大学特任准教授を経て、2012年東京大学准教授、2022年4月より現職。専門は認知神経科学、知覚心理学。
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性別ではなく対個人でコミュニケーション