上野で醸造したクラフトビール、町おこしのシンボルに!

次は東京・上野、不忍池から徒歩3分の仲町商店街にある「シノバズブルワリー ひつじあいす」。こちらでは自家醸造のクラフトビールとラム肉を堪能できる。
もともと新型コロナウイルス禍で人通りが少なくなった商店街を盛り上げようと、「不忍エールエール」(エールビールと応援のエールをかけて命名)というボトルビールを、近隣店主たちにもテイスティングしてもらいながら同店で開発。商店街の複数の店舗に無料で配ったところ意外に評判がよく、本格的にクラフトビールの醸造を決意した。2021年12月に醸造所付きの同店をオープンさせ、22年4月には無事に醸造免許も取得した。
ガラス張りの店のエントランスからは、醸造最中のサーマルタンクが2本見え、店内に入って凝視すると、ぷくぷくとタンクからガスが排出されている様子などもうかがえて発酵の臨場感がある。タンクがある反対側のカウンター席の奥にはドラフトビールのタップが12本並ぶ。
「クラフトビールの旬は、実は秋なんです。これからが一番おいしい季節なんです」と話すのは同店を経営する長岡商事の前川弘美社長。通常、ビール製造にはドライホップをメインに使うものだが、同店では近隣で東京大学の学生たちがホップを栽培している縁で、フレッシュなものも入手でき、この時期はドライホップは少なめになるのだという。

「ホップを9月に収穫して、手でもんで香りの成分を引き立たせてからタンクに入れます。摘み取ってから24時間以内に入れるのが理想です」と前川さん。産学連携でホップ栽培とビール造りをしているからこそ実現できている特別な例で、通常は収穫と醸造のタイミングが合わず、収穫したホップをいったん真空パックして冷凍保存しておき、必要な時に少しずつ使う。フレッシュなホップが投入されるのはまさに今だけで、ビールが1年で最も香り豊かに仕上がる。
さっそく出来たての樽(たる)生「不忍エールエール」を味わってみると、テーブルに提供された瞬間から、顔をビールに近づけなくとも、ふわりと香ばしいホップのアロマが漂ってきて驚く。フルーティーで飲みやすく、心地良い苦味もあり、生ビールならではのフレッシュなうま味は止まらないおいしさだ。ビールが苦手な若者にも人気というのも納得。
自家醸造のクラフトビールは常時10種をそろえ、看板メニューのニュージーランド産「ラムチョップ」(1本500円、5本セット、焼き野菜付きで2750円、タレ・塩)と相性抜群。絶妙なミディアムレアに焼き上げてくれるので驚くほど軟らかく、最初の一口目から肉汁が広がりジューシー。羊肉独特の香りのクセがないのでラム肉と言われなければわからないほどだ。骨つき肉だがほどよいサイズで、女性がかぶりついても恥ずかしくないのが良い。

また店名通り“羊 愛す”の同店では、羊の16部位を丸ごと使用。中でも超貴重なフィレ肉を使った「ラムパッチョ」(1870円)は、低温調理で仕上げた羊のシャトーブリアン。かめばかむほどに、肉の甘やかなうま味が広がり、卵黄をつけていただくとまろやか。クラフトビールのかんきつ系のフレーバーと見事にマッチする。
一方、北海道厚真町産のマトンを使った1日2組限定の鉄板焼きも用意。マトンの上質な脂まで使った自家製パテ・ド・カンパーニュなども提供していて、こちらはスパイシーで重めのビールによく合う。ほかにも羊の心臓やハツ、羊のラーメンや水ギョーザなど、初お目見えの珍しい料理がたくさんラインアップ。メニュー表を見ているだけでも心躍る。
醸造を開始して約半年だが、イベントなどと重なると自家醸造ビールが売りきれてしまう日もあるらしく、今後はもっとタンクを増やしたいと店のスタッフたちは意気込む。