歯周病菌は全身に飛び火 コロナ重症化の要因にも
歯周病は新型コロナウイルス感染症の重症化要因になるかもしれないとの指摘がある。2022年3月に発表されたコロナ入院患者128人(20~97歳)の口腔環境を調べたブラジルの研究では、歯周病の重症度がコロナ感染症の重症化や集中治療室(ICU)への入院リスクの上昇、死亡リスクの上昇につながっていた[1]。
「歯周病は慢性的な炎症を伴う疾患で、感染症による炎症も悪化させるだろうと考えている。また、口腔内の舌や歯肉にはコロナウイルスの侵入口となる『ACE2受容体』というたんぱく質が存在する。歯周病菌が作り出すたんぱく質分解酵素はこの受容体を覆うコーティングをはがして露出させ、ウイルスを取り込みやすくするようだ」(天野教授)。
今、関心が集まっているコロナだけではない。「炎症を引き起こす」性質を持つ歯周病菌は口の中だけにとどまらず、全身に炎症を飛び火させ、いくつもの疾患に関係することが近年の研究で明らかになってきた(イラスト)。
歯周病菌は歯周ポケットで歯肉のたんぱく質を溶かして潰瘍を作る。「潰瘍は擦りむいた傷と同じで、常に微量に出血している。虫歯菌は糖を好むが、歯周病菌は血液に含まれる鉄分とたんぱく質を栄養にする。そのため、出血があると増殖し、さらに血液を求めて深く潜り込み、産生する酵素で歯肉や歯槽骨を溶かしていく」(天野教授)。
歯肉の血管内に侵入した歯周病菌は血流を通して全身の組織に到達する。歯周ポケットが5ミリメートル程度の歯周病が口腔内全体に発症すると、ポケット総面積は55~72平方センチメートルに及ぶ。体内で常に手のひら1つ分の火事(炎症)が発生していると想像すると、影響を実感しやすいだろう。「歯ブラシでさっとこするだけで出血したり、柔らかい歯ブラシでないと痛くて磨けなかったりという人は歯周病菌による炎症の影響が体内に広がっている可能性が高い」(天野教授)。

歯周病が引き起こす炎症は全身の老化を促進する糖尿病とも密接に関わる。歯周病は糖尿病を悪化させ、糖尿病もまた歯周病を悪化させることが明らかになっている。広島県で行われた研究では、糖尿病患者が歯周病の治療をすることによって炎症の指数が減少し、過去1~2カ月の血糖値の指標となる「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」が減少した[2]。19年には「糖尿病治療ガイドライン」で2型糖尿病の人への歯周病治療が「推奨レベルA」になった。今や歯周病は糖尿病の合併症である網膜症や腎症、神経障害、足病変、動脈硬化性疾患と並ぶ「第6の合併症」とも呼ばれる。「歯周病を治療し、口腔内の炎症を抑制すると、血糖値上昇の原因になるインスリン抵抗性にも改善がみられる。糖尿病専門医の中には『歯周病治療を行うと、糖尿病の薬を1種類減らせる』と言う人もいる」(天野教授)。