不思議な認知症の世界 旅するように味わうガイド人生の景色が変わる本(27) 『認知症世界の歩き方』

筧裕介著、認知症未来共創ハブほか監修 ライツ社

認知症を「旅」になぞらえ、そこで体験することを旅行ガイド風に構成した本。そのとき、認知症である本人は何を思いどう感じているか、背景にどのような心身の機能障害があるか、などが分かる。

まず思い知るのは、人体の諸器官がいかに複雑な作業をこなしているか。そのちょっとした不具合が、生活の質を大きく左右することを再認識する。そして、認知症は決して特別な病気ではないこと。多様な症状を知ると、誰もがすでに認知症の断片と無縁でないことに気づく。ケアする立場になったときはもちろん、自分自身が本格的な認知症に直面したときのためにも、有益な読書となるはず。いずれこういう事態に直面すると覚悟していれば、旅するように楽しめたりして?

要点1 不可解な言動にも必ず理由がある

認知症の人の世界像は、常識的なそれとは違う。見えるはずのものが見えなかったり聞こえない音が聞こえたり、時には時間が逆戻りしたりと、しばしば不思議な体験をする。まるで「視界も記憶も同時にかき消す渓谷」「タイムスリップする街」「落とし穴や水たまりが突然現れる砂漠」など、ミステリーゾーンを旅しているかのようだ。原因は、心身の不具合により感覚器官からの情報や解釈が混乱することにある。不可解な言動に見えても「自分は正しい」と思っているのだから、周囲が頭から否定してはいけない。背景に何があるのかに思いを寄せることで、本人も介護者も楽になる。

要点2 記憶障害は、覚えた行動自体を忘れる

不可解な言動の大きな原因に記憶障害がある。これは、記憶を成り立たせる3段階のプロセス(①情報を記憶する、②記憶を保つ、③記憶を取り出す)のどこかにトラブルが生じた結果。例えば、「バスから降りられない」ことの背景には、行き先を記憶できない、記憶してもすぐに忘れてしまう、記憶はあるが取り出せない、などの不具合がある。単純に見える行動も、複数の機能がスムーズに働いてこそ成し遂げられるのだ。ちなみに、行く先を忘れてもメモなどを見て思い出せるなら、それは「物忘れ」。記憶障害は、自分が覚えた行動自体を忘れてしまう。

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要点3 奇妙な体験を招く感覚の不具合
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