
南フランス原産の人気ブドウ品種「シラー」は、場所によっては「シラーズ」と呼ばれる。語尾が少し違うだけでは?と思ったら大間違い。確かに同じ品種だが、原語のスペルは全然違うし、味わいのスタイルも大きく異なる。さらに言えば、呼び名の違いはマーケット戦略の反映でもある。シラーとシラーズの違いを知れば、ワインを選ぶ楽しみや、飲む楽しみが一段と広がること請け合いだ。
7月中旬、東京都内のワインスクールで「日本で味わうバロッサ」と題したセミナーが開かれた。バロッサはオーストラリア・南オーストラリア州にある同国を代表する銘醸地で、そこで栽培されたシラーズから造る赤ワインは世界的にも評価が高い。オーストラリアではシラー(Syrah)ではなく、シラーズ(Shiraz)で表記を一本化している。
今回のセミナーではシラーズ6種類、シラーズを含んだブレンドの赤ワイン3種類など計10種類を試飲した。赤ワインはいずれもフルボディータイプで、アルコール度数はすべて14.5度以上だった。ワインの世界では一般に、アルコール度数が14度以上だと度数が高いワインとみなされる。今回、試飲した中には17.5度のワインもあった。
どのワインも、完熟した果実の風味とアルコールの強さが相まって、非常にパンチの効いた味わい。ただ、近年はアルコール度数が低めでフレッシュな味わいのワインがトレンドなのに、プロモーション目的のセミナーにそうしたワインが1本も含まれていないことを、やや不思議に思った。

その疑問を「バロッサアジア大使」の肩書を持つ講師役のアンソン・ムイさんにぶつけたら、明快な答えが返ってきた。「もしアルコール度数が低かったら、それはもうバロッサワインとは呼ばない。アルコール度数の高いフルボディーのワインこそが、バロッサの気候を反映したバロッサワインのスタイルだ」
試飲した中でのおすすめは「ファースト・ドロップ マザーズ・ミルク バロッサ・シラーズ」(2750円)。フルボディーだがフレッシュな果実感もあり、飲み飽きない。価格も手ごろだ。
バロッサワインを試飲した翌日、都内で輸入業者主催の南アフリカワインの取引先向け試飲会があった。約50種類のワインの中にはシラーも数多く含まれており、試飲したシラーはどれも、バロッサワインとはまったく趣が異なる味わいだった。一言で表現すれば、テクスチャー(舌触り)がとてもなめらかで、心地よい余韻がいつまでも口の中に残る。アルコール度数が14度以下のものも多く、パンチの効いたというより、むしろエレガントスタイルだ。