MTPとは「野心的な変革目標」などと訳され、30年以上先に実現する、まったく異なる世界観を指す。「たとえば人口が増えて食糧危機が起きるかもしれない近未来のご飯は、栄養価満点のサプリになるかもしれない。でも、人間は常に食の楽しさを求めますよね。では、どうやったら両方を実現できるのか。そんなふうに、顧客である食品メーカーの創りたい未来像を一緒に考えていくわけです」
アプリビジネス、挫折も経験
ツールとしてAIを使いながら、より良い未来を後世につなげるのが平野さんの最大の挑戦だ。「そう考えるようになったのは子供を持ってから。それまでは、自分が楽しければいいやっていう、自分勝手な人間だったんですけど、子供が生まれたら次世代のことを考えるようになりました。数世代先の子孫に良い地球、良い日本をお渡ししたいなって考えているんです」

東京大学在学中にIT企業を設立しミクシィ(現MIXI)に売却。その後、シナモンの前身となるアプリビジネスの会社を立ち上げた。シンガポール、ベトナム、タイ、台湾を拠点としていたが、ビジネスは大失敗。「当時ベトナムや台湾で採用した優秀な技術者たちを半数以上解雇せざるをえなかったことが、一番つらかったですね。会社がつぶれることが分かっていて、資金調達もできず、おなかには子供がいました。2016年に日本に戻って、なんとか稼がないといけないとシステム受託の営業に走り回りましたが、その時が一番大変でした」
折しも当時、デジタルの世界ではAIブームが到来しつつあった。その波に乗り、どん底からはい上がれたのも、かつて研究していたAIの知見を生かすことを思いついたからだ。「05年にWeb2.0の流れがきて、SNSなどで一般ユーザーがどんどんデータをネット上にあげるようになりました。これらの爆発的に増えるデータを、どうやって選別して一人ひとりに届けるのか、とAIに興味を持ち勉強していたんです」

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