麺メニューは「煮干らーめん」とそのバリエーションである「特製煮干らーめん」のみ

券売機は、入り口からほど近い右手側に鎮座。提供する麺メニューは、「煮干らーめん」とそのバリエーションである「特製煮干らーめん」のみだ。

「醤油の銘柄は……秘密です」

「生き馬の目を抜く競争が繰り広げられているラーメン業界。そんな環境で自分ができるのは、『煮干らーめん』のスープのみに神経を集中させ、徹底的に突き詰めていくこと。また、それが自分らしさなのかなと思います」と語る宮澤氏。

このような言葉を紡ぐ実直な作り手がいることは、食べ手にとって純粋にうれしいもの。『月曜日は煮干rabo』の時代から、同氏に多くの常連が付いている理由の一端が垣間見えたような気がした。

店内は、6席のカウンター席と、2人掛けのテーブル席が1席。席と席との間にはアクリル板が設置され、新型コロナウイルス感染防止対策も万全だ。

訪問時、店内は満席だった。お客さんは皆、丼の世界にのめり込み、耳が捉えるのは、一心不乱に麺とスープをすする音だけ。厨房から漂う適度な緊張感が、心身をピリッと引き締める。ラーメン食べ歩きの経験を重ねた方であれば、入店した瞬間に「この店の味は期待できる」ときっと確信できるだろう。

注文から約3分で、「煮干らーめん」が登場。丼から放たれ宙へと舞い上がる煮干しの香りの麗しさに、鼻腔が歓喜に打ち震える。

ビジュアルも、ほれぼれするほど端正。トッピングとして採用された輪切りのレンコンが、ワンポイントとして見事に機能。豚チャーシューの「紅」、鶏チャーシューの「白」、刻み青ネギの「緑」、柚子皮の「黄」など、多種多様な色が用いられており、視覚的にも華やか。その美しさたるや、手を付けることさえ惜しまれるほどだ。

スープは、考え得る限りの技術の粋を凝らした手間ひまの結晶。出汁(だし)を採る素材は魚介のみで、6種類の魚介素材(2種類のカタクチイワシ・ウルメ・アジ・アゴ・伊吹イリコ)を、それぞれの持ち味が生きるよう絶妙なバランスでブレンドし、1つの寸胴でじっくりと火入れを施す。

「カタクチイワシは『味の土台』と『インパクト』、ウルメは『甘み』、アジは『上品さ』、アゴは『力強さ』、伊吹イリコは『まろやかさ』を表現するために使っています」。それぞれの素材の特長を正確に捉え、縦横無尽に使いこなす宮澤店長。その構成力は、特筆に値する。

出汁だけではない。カエシの醤油(しょうゆ)も、煮干しとの相性を最大限考慮し、様々な銘柄で試作を繰り返した結果、現在のものへとたどり着いたという。「うま味や香りが強い醤油を使うと、せっかくの煮干しの風味が醤油に相殺されてしまいます。そうならないよう、吟味に吟味を重ねました。使っている銘柄は……秘密です」と笑う。

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鶏ムネ肉と豚肩ロース 2種類のチャーシュー