
ワイン市場で「ナチュール・ネーティブ」と呼ばれる新たな飲み手の層に今、注目が集まる。20代から30代と比較的ワイン歴が浅く、ワインにはまったきっかけが「ナチュラルワイン」という人たちだ。ナチュール・ネーティブの台頭に呼応するかのように、ナチュラルワインを売りにするレストランやワインショップ、ワイナリーも増えており、消費が伸び悩んでいるワイン市場の起爆剤となる可能性も出てきた。
ナチュラルワインとは一般に、農薬や化学肥料に頼らずに育てたブドウを、市販の培養酵母ではなく醸造所内やブドウの皮に存在する天然酵母で発酵させ、酸化防止剤を添加せず、無ろ過で瓶詰めした、いわば昔ながらのワイン。口当たりのよいジューシーな味わいや染み入るような喉越しが特徴で、今世紀に入り世界的に人気が高まっている。
一方、ナチュール・ネーティブは、フランス語でナチュラルワインを意味する「ヴァン・ナチュール」と、子どものころからインターネットやパソコンに囲まれて育ったデジタル世代を意味する「デジタルネーティブ」を掛け合わせた造語。この造語を考案したイタリア産ナチュラルワイン専門店「エッセンティア」(東京・目黒)のオーナー、ユキトさんは「最近は若いお客さんの来店が増えており、20代も目立つ。彼らと話をすると、ワインにはまったきっかけがナチュラルワインという人が結構多い」と指摘する。
東京都目黒区に住む会社員の真奈美さん(22)も、そんなナチュール・ネーティブの1人。食べ歩きが趣味で、週末を中心に週2回ほど、友人と、あるいは1人で、カジュアルなレストランやバーでワインを楽しむ。「店ではナチュラルワインを頼むことが多い」と話す。
なぜナチュラルワインなのか聞くと、「ワインの香りと味わいに酔いしれながら、ゆっくり時間を過ごす楽しみ方を最初に教えてくれたのがナチュラルワインだったから」と、ベテランのワイン愛好家のような答え。しかし同時に、「インスタグラムでナチュラルワインと料理の投稿を見かけることも多い。フォローしているインスタグラマーのナチュラルワインの投稿を見ると、つい興味がわいて店に足を運んでしまう」と、最近の若者らしい理由も挙げた。真奈美さんは、友人らと店に行き、飛び切りおいしいナチュラルワインと出合った時は、若者言葉で「最高」を意味する「優勝」と声を上げるそうだ。
会社員の荒井啓さん(31)がナチュラルワインと出合ったのは、社会人になって間もない約7年前。たまたま入った都心の立ち飲みバーがナチュラルワイン専門のバーだった。「うま味を感じる味わい、柔らかな口当たり、ゴクゴク飲めてしまう感覚など、それまでに飲んだワインとはまったく違う印象に衝撃を受けて」、以来、その店に通うようになった。それがナチュラルワインと知ったのは、しばらくしてからという。
ナチュラルワイン好きが高じ、荒井さんは約1年前、フェイスブック上に「ナチュラルワイン/自然派ワイン」というグループを立ち上げた。メンバーは1700人を超え、時折、オフ会も開いている。
ナチュラルワインは従来のワインと比べて風味が大きく異なるものも多いため、従来のワインを飲み慣れている人の中には、苦手という人もいる。この点、ワイン歴の浅い若い世代は、ナチュラルワインの独特の風味を比較的すんなりと受け入れやすいようだ。