ピスタチオビジネスはブルーオーシャンだった

しかし、なぜピスタチオなのか。食糧難やたんぱく質供給難について警鐘が鳴らされる昨今、ほかにも有望な農産物はあるのではないか。
さらに調べると、FAOのある資料に行き着いた。それは中央アジアの国の農業生産を高めるためにピスタチオとクルミの栽培を推進することを説明する資料なのだが、有利なポイントとして挙げているなかにこういうものがある。(1)広大な土地(2)適した気象条件=夏季の乾燥――。中央アジアの乾燥地帯原産のピスタチオの木は高温と低温に強く、また乾燥を好むのだ。
そして資料はさらに、ピスタチオとクルミのビジネスとしての魅力を挙げる。それによれば、これらは今後需要の増加が見込まれ、輸出の可能性がある。その半面、従来の生産地では市場志向に合わせる考え方が欠けており、栽培や収穫の技術も昔のままで、歩留まりが悪い。一方、市場では既存の品種が評価されていない、といったことが挙げられている。つまり、ピスタチオとクルミの生産は、近代化すれば勝てるというストーリーだ。
さて、資料にあるようなピスタチオとクルミ栽培に向く、乾燥した地域で広大な農地は米国にも多い。ただ、米国ではすでにクルミは大々的に栽培されているが、ピスタチオはそこまで栽培されていないとなれば、投資家たちにはピスタチオビジネスは“ブルーオーシャン”に見えただろう。

一方、イラン産ピスタチオは他国産に比べて風味がよいと評価されていたが、いくつかの弱点を抱えていた。それは栽培、収穫、選果などの調製作業が人手によるもので効率が悪いことと、もう一つ致命的だったのはカビの発生による毒素発生のリスクが高いことだった(一般に、ナッツ類に発生するカビは強い毒の原因として恐れられる)。そのため、日本の輸入管理でも検疫のレベルを上げるなどの対応を採ったため、00年前後に日本でのシェアはイラン産が縮小し米国産が大きくなり始めていた。
ただ、その米国ではアーモンドやクルミなどと同じく機械作業による効率化が進んでいるという長所があったが、風味の評価で負けていた。それに対して、品種選びと栽培管理で風味を向上させる研究が始まった。
カビ発生の抑制については、ピスタチオは未熟段階で殻が開いてしまったり、熟し過ぎてしまったりするとカビが発生しやすくなるため、それを防いだり除去したりといった栽培上の管理を行う。また、収穫してから24時間以内に速やかに一次乾燥を済ませるといった調製段階での管理も厳格に行うという。
また、殻が開いていない実を取り除く選果も機械化しているという。これは人が目で見て選別するしかないだろうと思っていたが、米国では機械化に成功した。ニードルピッカーという、その名の通り針状の部品を持った装置で、針は開いた殻には引っかかり、閉じた殻には引っかからないために選別が可能だという。これと色彩選別機を併用することで、高効率で高精度な選果が可能になった。
こうした基本的な技術革新が進んでいたところへ、リーマン・ショック以降に積極的な投資があり、米国が急速にピスタチオ生産国として首位に躍り出た。そして、日本の店頭に並ぶピスタチオの品質が上がり、また価格も下がることで製菓、外食、食品メーカーでも積極的に新商品開発が行われているというわけだ。
さて、高温・低温・乾燥に強く、商品としても魅力のある農産物となれば、もちろん米国以外でも注目される。実際、2位のトルコも米国を猛追しているし、ヨーロッパからアジアにかけてピスタチオに力を入れ始めている国々はまだある。ということは、今後さらにおいしいピスタチオを手軽に楽しめるようになるかもしれない。
願わくは「ピスタチオバブル」ということにはならないでほしいところだが。とりあえず、当分はピスタチオを使った新商品からは目が離せそうにない。
(香雪社 斎藤訓之)