帰国して慶応大学在学中に東大大学院のブロックチェーン寄付講座の共同研究員として、茂木源人教授の研究室に入った。茂木教授は持続可能なエネルギーシステム構築からブロックチェーンや医療など幅広い分野を扱う社会戦略工学の専門家として知られている。この研究室でブロックチェーン技術のトップエンジニアと出会い、19年1月に起業した。

一方、ビットコインには逆風が巻き起こった。価値があまりにも乱高下する不安定性に加え、世界中で不正事件が相次ぎ、負のイメージも強まった。18年には日本でも仮想通貨の流失事件が起こり、被害総額は約580億円に上った。日本の金融当局も規制を強化した。日本は税制面の整備も遅れているため、シンガポールに移転したのだ。

しかし、渡辺氏は「一連の仮想通貨の不正事件は取引所の保管に問題があったため。ブロックチェーン自体は安全と信頼性を担保する技術だ」と語る。ブロックチェーンはネットの落とし穴を埋める技術だ。分散型ネットワークのため、サイバー攻撃に遭っても、データを盗まれたり、改ざんされたりする可能性が極めて低い。

ゴールは会社を清算すること

渡辺氏はエンジニアとパブリック・ブロックチェーンの技術を磨き上げ、米国や中国の大手ファンドからも次々に投資を受けた。21年にはステイクが発行した「Astar Network」というトークン(電子証票)は仮想通貨交換業者への上場で理論上の時価総額が約1000億円規模に膨らんだ。今や日本発のパプリック・ブロックチェーンの旗手と言われる存在だ。

「実は私のゴールは株式公開や売却ではない。この会社を清算することです」と意外な目標を語る。パブリック・ブロックチェーンは安全で、公共性の高い次世代の社会的ネットワークだからだ。「自分が支配者になり、独占的にもうけたいわけではない」という渡辺氏。ロールモデルは渋沢栄一。新しい資本主義の礎を創るかもしれない。

(代慶達也)