背景に「原点回帰」の動き
だが、新興ワイン産地が増えて産地間競争が激化すると、同じようなワインを造っていては差別化できないというジレンマを生む。そこでポルトガルの生産者たちが着目したのが、他国に比べて多く残っていた混植の畑だった。そこにはポルトガル固有の土着のブドウ品種がたくさん植わっており、しかも深みのある味わいにつながる古木も多かったことから、他の産地との差別化にはもってこい、と考えた。
ポルトガルだけではない。オーストリアでもウィーン近郊で造られるフィールドブレンド・ワイン「ウィーナー・ゲミシュター・サッツ」が2013年、地域の特性を表現したオーストリアワインに与えられる「DAC」(原産地呼称ワイン)の称号を獲得するなど、フィールドブレンドの評価はじわりと高まっている。品種名の表記を世界に広めたカリフォルニアでも、高品質のフィールドブレンド・ワインを造る生産者が現れている。
フィールドブレンドが注目される背景には、近年のワイン市場のトレンドである「原点回帰」もあるようだ。酸化防止剤無添加のナチュラルワインや、土着品種から造った個性的な味わいのワイン、新樽(たる)の香りを抑えた果実味重視のワインの人気が世界的に高まっているが、これらはすべて「昔ながらのワイン」だ。
別府さんはフィールドブレンド・ワインの魅力を「単一品種のワインは楽器のソロ演奏、フィールドブレンド・ワインはオーケストラ」と表現する。多数のブドウ品種が入っているため、味わいに広がりや深みが出る。だから「いろいろな料理に合わせやすい」し、「品種を覚える必要がないので、気軽に楽しめる」といったメリットもあると指摘する。
別府さんにおすすめのフィールドブレンド・ワインを挙げてもらった(テイスティングコメントは筆者。価格は税込みの小売価格または希望小売価格)。
●「ヴィーニンガー ウィーナー・ゲミシュター・サッツ 2020」(3740円)
オーストリア・ウィーン地方の白ワイン。11種類の品種を使用。グレープフルーツやレモンなど酸味の豊かな果実の香りが刺激的で、ボディーに厚みがあるため余韻もしっかりしている。


●「アントニオ・マデイラ ブランコ コリエイタ 2018」(3850円)
ポルトガル・ダオン地方の白ワイン。20種類以上のブドウを混醸。外観や、やや渋みを感じる味わいはオレンジワインに近い。ナチュラルワインのようなジューシーで体に染み入るような味わいが心地よい。