しかし、飢餓の心配がほぼなくなった現代では、脂肪のとりすぎは脂肪肝の要因になってしまいます。なかでも非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)は近年、先進国で人口の約30%が罹患し増加傾向にあるとされます。また、NAFLDのうち約10%は非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)に進展し、肝硬変や肝がん発症につながります。そうしたことから、ルビコンの働きを妨害し、オートファジーを肝臓できちんと働かせることが可能になれば、脂肪肝の治療法確立につながるかもしれない、と期待されています。

「ルビコン」は加齢でも増え、ないと寿命が延長!?

続いて吉森氏は、老化とルビコンの関係についても研究を進めました。その結果、線虫(ヒモ状の動物で、老化や寿命の研究でよく用いられる)、ショウジョウバエ、マウスの組織では、加齢に伴いルビコンが増加すること、そしてルビコンをなくした線虫では、寿命が1.2倍に延びることがわかりました[注3]。1.2倍とは、例えば80歳の寿命が96歳に延びるようなものです。

「さらに予想外のことが起こったのです。年をとると線虫はゴニョゴニョと動き回れなくなるのですが、ルビコンをなくしてオートファジーがさかんに起こるようにすると、年をとってからも、通常の約2倍も激しく動き回ったのです。人間でいえば、80歳を超えてフルマラソンを完走できるような状態になったのです」(吉森氏)

これらの結果から、加齢に伴ってルビコンが増えることが、加齢によるオートファジー低下に関わることがわかります。また、ルビコンを抑制できれば、寿命の延長や老化による活動力低下を予防できる可能性があるともいえます。

こうした研究が進むことで、もしかしたら10年後ぐらいには老化を抑制する医薬品が登場するかもしれません。老化抑制が実現可能なものとなったとき、私たちは何を選ぶのか、どう生きたいのか、正しい情報を集め、真剣に考えたいところです。

[注3]Nat Commun. 2019 Feb 19;10(1):847.

(図版作成 増田真一)

この記事は、「細胞の若返り機能『オートファジー』は60代以降、急速に衰える」(柳本操=ライター)を基に作成しました。

[日経Gooday2022年10月17日付記事を再構成]

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