
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、私たちの意識や価値観を大きく変えました。多様化・甚大化するリスクに対処するには、日ごろの備えに加え、多くの人たちと共に新しい価値を創りあげることが求められています。MS&ADホールディングスの原典之社長が、気候変動など「社会のリスク」といえる課題に関心を寄せるモデルのトラウデン直美さんと対談した中で見えてきたのは、時代を生きる道標として様々な問題を身近に捉え「自分ごと化」する意識と感性の輪を広げることの大切さでした。
多様化・甚大化するリスク 日ごろの備え重要に
保険金支払いのウェブ対応、災害時の分散対応進める
原 コロナ禍が社会に与えたインパクトは非常に大きいものでした。多くの企業でリモートワークが進み、ネットショッピングが拡大、お客様も非接触志向が進みました。我々も緊急事態宣言中は在宅勤務が7割になりましたが、もともとシンクライアント・パソコンという情報セキュリティーのしっかりしたパソコンを配備し、あるいは在宅勤務を働き方の多様化の一環で進めていたので大きな混乱はなく対応できたかなと思っています。

ただ、心配した点が2つあって、一つは保険金支払部門の示談対応です。従来、軽微な物損事故は電話や書面で対応してきましたが、コロナ禍で被害者がウェブ対応を求めるケースが出てきた。社会の変化を感じさせる出来事でした。もう一つは、大きな地震や台風が起きた時の対応です。従来は多くの人員を1か所に集めて被害の受付対応や調査、保険金の支払対応を行ってきましたが、これでは仮に首都圏で大きな川の氾濫などが起きた時には対応できないと思い、eメールやウェブサイト上での受付、電話の転送システムの活用、クラウド上のサイトに被害状況や修繕見積もりなどを登録することによって全国の損害サービス拠点で分散対応を進めました。こうした準備が20年に九州で発生した豪雨や台風の災害対応に間に合いました。これ以外にも、例えばスマートフォンで保険の契約ができるようにしたり、コンビニの端末でがん保険の販売ができるようにしたり。トラウデンさんも変化を実感されたのではないですか。
トラウデン そうですね。自分自身の力をどう使うか、生かすかということをすごく考えさせられた期間でした。家にいる時間が相当長かったので、その活用の仕方を自分で考えて選んでいかなければいけない。その中で、どうすればいいかわからなくてストレスがたまってしまった人もいれば、自分なりに楽しむ方法があって時間を目いっぱい使い新しいことを考えることができた人もいた。ある意味、二極化してしまったのかなと思います。仕事にしても終身雇用が今後崩れていくといわれる中で、自分のライフプランをどのように組み立てていくのか、個々が考えられる世の中になるきっかけになったのかなと。その意味では、結構大変な、プレッシャーのかかる時代がやってくるとも感じます。
SDGsを道標にCSV推進
「みんなが幸せになるために」
原 近年、コロナに限らず、世界規模のリスクが頻発に発生するようになっています。大規模災害については、昨年、日本は例年に比べて大きな自然災害の少ない年でしたが、海外では大きな災害が相次ぎました。デジタル化が進んだ結果、サイバーリスクが大きなものとなり国境を越えたサイバー犯罪が常態化しています。もともと保険業界はリスクを見つけ、洗い出し、お客様にお伝えして低減策や万が一の時の補償を提供するのがビジネスモデルです。例えば「自然災害への備え提案運動」を進め、ご契約の補償内容を再確認していただいています。これにデジタルを活用してリスクの可視化や、リスクをわかりやすく伝えるためのスマートフォンの多言語アプリの開発も進めています。リスクと向き合うには「自分ごと」としてリスクを知ることが大前提です。
トラウデン SDGs(持続可能な開発目標)という言葉がありますが、私の解釈では「みんなが幸せになるための目標」です。それに反するものがリスクで、リスクを無視してそのままにしてしまうと、誰かが悲しむ結果が起きてしまう。リスクへの備えは確実にSDGsにつながっている。今は予測できない社会全体でのリスクがすごく大きい。少子高齢化もリスクですし、地球環境、CO2、気候変動やサイバーの問題もリスク。それに備えるには、一人でどうあがいてもどうにもできない。だからこそ、保険やいろいろな形でみんなが協力してリスクに備える必要があるのだと思います。

原 そうですね。SDGsは「誰一人、取り残さない」ということ。企業も1社だけでは活動できないし、社会とともに発展をしていかないと成長しない。これが一つのバックボーンで、SDGsを道標にしてCSV(Creating Shared Value、社会との共通価値の創造)を進め社会とともに持続的に成長しようというのが我々の戦略です。
トラウデン SDGsなど社会課題は多岐にわたりますよね。だから、自分の好きなことから、でいいと思います。自分の好きなものが10年後も続いているかと考えたときに、難しいかもしれないというものが結構あると思います。利己的になってこそ利他的にもなれると思うので、自分のしたいものを続けるためにその環境を整えよう、くらいの気持ちでいいと思います。全部が人のためにと思っていると、できなかったときにすごくつらくなりますが、自分のためにやっているのだから、ちょっとできなくても「また失敗しちゃった」、「次、もう一回頑張ってみよう」となれる。だから、自分のためにやることが巡り巡って周りのためになって、また自分のために戻ってくる。そういった循環もすごく重要だと思います。
原社長が若者に伝えたいこと
感性を磨きチャレンジ、自分の可能性を広げて
原 まだまだ先の見通せない時代ですが、これから社会を支えていくのはトラウデンさんのような若い人たちです。ぜひ自分の可能性を広げてほしいし、そのために自分の感性を磨いて様々なことにチャレンジをしてほしい。感性を磨くという意味では、コロナの制約があってなかなか難しいでしょうが、多くの方と会って話をし、その人の考え方を知り、自分の考えを持つことが大切。現地の方と触れ合い、その土地の歴史や文化、あるいは食べ物、いろいろな経験をしながら、自然の風や空気も含めて感じることが大切じゃないかと思います。そうすると、その人たちの考え方のベースにあるのは何かと考え、感じることができる。旅行ができずとも、本を読むことで代替もできます。
当然ながら、失敗はある。みんな、失敗をしてきている。ただ、その失敗を次に生かすことが大切で、なぜ失敗したか考え、同じことを繰り返さない。そのためにはどうしたらいいかを考えることが大切です。一方でチャレンジするときには、しっかりと準備をすることも重要です。難しいことであればあるほど、徹底した準備をする。失敗しても、その失敗を小さくできる。そして、やり抜くこと。やり抜けば、いろいろ発見できることがあると思います。
トラウデン 確かにコロナで、踏み出すのを自分たちの中で制限してしまっている部分があったと思います。今後はそこを怖がらずに、準備して、チャレンジして、それがダメだった際は大人の方々にちょっとフォローしていただいてというふうに成長していければいいと感じました。今、チャレンジしたいなと思っているのが日本各地の伝統産業、伝統工芸を少しずつピックアップして発信することです。日本の素晴らしい伝統を残していくための活動を、勉強させていただくという形ではあるのですが、やっていきたいと思っています。

【PR】提供:MS&ADインシュアランスグループホールディングス / 企画・制作:日本経済新聞社 コンテンツユニット