
東京・銀座にありながら、お手ごろ価格で本格的な天ぷらが楽しめる店がある。銀座7丁目のビル地下1階にある「天ぷら やす田」だ。具材はもちろん、天つゆのダシにもこだわり、ダシ好きもうなるほど。店主は大学でロケット工学を学び、卒業後は日本料理店でイチから修業し、その店の総料理長まで務め上げたという異色の経歴の持ち主で、カウンター越しの会話も自然と弾む。
銀座・中央通りから昭和通り側に1本入った場所に店はある。「和食をもっと身近に感じてもらいたい」という思いで、2017年12月に出店。店内はカウンター8席と個室がひとつだけでこぢんまりとしている。昼と夜とでメニューや値段がガラリと変わる店が多いが、この店は基本メニューの天ぷら定食や天丼は昼夜変わらず、しかも値段(1000円前後)も同じというのがありがたい。夜には一品料理として刺し身やあおさの湯豆腐、ぬか漬けなどの酒の肴(さかな)が新たに加わる。

天ぷらの具材は毎日、店主の安田大吉さんが東京・豊洲市場や築地の場外市場まで足を運び仕入れているという。国産で産地がはっきりしているものを厳選し、開業以来、「食材は毎日全部使い切り、ロスしたことがない」のがひそかな自慢になっている。
都内の日本料理店で約14年修業後、独立した安田さんだが、学生時代はロケット工学を学んでいた。そこから一転し、料理の世界へ飛び込んだのはナゼか――。
「就職氷河期世代で採用ゼロの企業が多く、就職口や大学院へ進む費用もありませんでした。人間が生きる上で必要となる衣・食・住関連の分野なら仕事は必ずあり、食いっぱぐれることもないと考え、食の分野にチャレンジしました」
当時の外食産業といえば居酒屋のチェーン店が主流だったが、「あえて狭き門」に挑み、懐石料理などを手がける都内の日本料理店の門をたたいた。「木の芽の茎をひたすら外すだけの作業」などイチから料理人としての修業をスタートし、調理の腕を徐々に磨き、最終的にはその店の総料理長として厨房を取り仕切るまでに至った。
独立するにあたりナゼ、天ぷらだったのか。その疑問に対しても答えは明快だ。「天ぷらは家でやりたくない料理のひとつであり、気軽においしい天ぷらを味わえるお店がなかなか無かったから。だから外食する意味がある。そう考えたのです」