独立前に働いた日本料理店ではともかく仕込みに長い時間を要した。天ぷら店ならばそこまで時間をかけずにお客様をお迎えできます、と安田さんは笑顔を見せる。
「ダシ好き」の客もよく通う店
この店の天ぷらは、大豆とごまの油で揚げる。花を咲かせたエビの天ぷらは衣がサクサクッと軽く、口に含むとプリッとジュワーと2種類の食感が満喫できる。尻尾の殻も処理してあり、食べ手にはうれしい。「花を咲かせる」揚げ方は、天つゆがうまく絡むようにするためといい、「うちの店は天つゆにもこだわっています」と安田さんは胸をはる。

たっぷりのかつお節と昆布でとったダシをもとに、天つゆに最も時間をかける。天丼のタレにも具材のエビのむき殻からとったダシを使っている。それもこれも日本食の料理人として長年磨いた腕の見せどころであり、「世界遺産にもなった和食をもう一度、日本人に見直してもらいたい」という思いに他ならない。だからだろうか、来店客の中には、ダシ好きの客も少なくないという。
ビールや焼酎をはじめ、日本酒のラインアップも豊富だ。ナショナルブランドの地酒よりも、むしろ地方の小さな酒蔵のなじみが薄い銘柄がいろいろ楽しめるのもいい。日本酒のラインアップは安田さんの個人的なネットワークに負うところが大で、蔵元から「こんな酒も仕込んだので試してみて」と直送された銘柄に出くわすサプライズも楽しめる。

ややボリュームがある「天ぷら ひつまぶし」もこの店の名物メニュー。ウナギのひつまぶしをもじり、エビや穴子の天ぷらを「塩」「天つゆ」「天丼」「天ぷら茶漬け」の4通りの方法で味わえる。一方、卵を油で揚げ、ご飯にのせた「卵天丼」もユニーク。アルコールと一緒に一品料理や天ぷらを楽しんだ後、シメにこれを注文する客も少なくないとか。ランチ時でも、夜銀座で一杯やりたいなと思う時、ぜひ一度足を運んでみてほしい。きっとあなたの行きつけにしたい店リストに載るはずだ。
(堀威彦)