リモートMRが開く 医薬品営業のイノベーション
HDCアトラスクリニック院長 鈴木吉彦
父は医学部を卒業しましたが、戦時中、商業高校にいました。そのためか「商い(ビジネス)」についても私に多くを話してくれました。父の話に沿って今制作を進めている「リモートMR」を解説してみましょう。
1.サービスについて理解し自分の言葉で提案できる
医師も製薬企業のMR(医薬情報担当者)も薬の知識に精通し理解し自分の言葉で提案し説明することが重要です。私が本をたくさん出版した理由も、自分の言葉で患者に「こういう治療はどうでしょう」と提案していたのでした。80冊以上の書籍を出版しベストセラーを何冊も出せたのも、その恩恵です。
今はSNS(交流サイト)やホームページ(HP)を駆使し、誰もが情報発信を行えます。患者はサイト内の情報をしっかりと読み、そこから「予約」すれば、意思疎通はスムーズで治療は成功しやすいはず。私たちの「オンライン診療」の仕組みは、それを可能にします。「リモートMR」も同じです。
2.「ベネフィット」を説明する
医師が患者に説明するとき、薬の成分や名前、作用機序、特徴だけを長々と説明していたら、患者は離れるでしょう。患者は、その薬が自分にとって、どういうベネフィットがあり、どう効くのか、他の薬とどう違い、なぜその薬でなくてはいけないのか、症状がどう治るのかを説明してほしい、と先に思うはずです。
現状日本では、MRの発言に自主規制をかけています。MRが単独で自社商品に精通しサービスを理解し自分の言葉で説明できなくなっています。他社製品と自社製品の差異を述べ、何故、自社製品が優れているのかを説明できるMRが激減しました。
本来、製薬企業の営業は、「こういう病気には、この薬を使えば、こういう問題を解決します。だから、従来の薬にはない優れた特徴を持っているのです。他社の薬とは、こういう点に違いがあるのです」「薬の作用機序から、どんな問題が解決できるのか。競合する他剤とは、患者がうけるベネフィットは、どう違うのか」を、一貫して話をしてくれるMRが必要なはずです。そうした内容を説明してくれるMRは減りました。日本の製薬企業が世界から後退しているのは既得権益をもつ一部の会社が過剰な「規制」を要求しているためでしょう。
3. アポイントを確実にとれる
MRが医師のところに訪問するのが、メールのやり取りを何度もして、ようやくアポイントの日時と時間が決まります。このメールのやり取りは、とても面倒です。
かつてMRは医師が歩く廊下の傍にたって薬の名前を売り込むことを主たる業務としていました。それを「コール数」と呼んでいました。年間のコール数が約3000件だった場合、営業日数を245日としてわると、1日約12件の医師に、薬の名前を覚えてもらうのがMRの役割だったのです。1日約12件のコールをして、その15%くらい、つまり1日2名の医師と1分以上会話ができ、あるいはバブル時代では1日1名の医師と接待という形のコンタクトをとるのが普通とされていた時代がありました。
MRは医師の外来の合間の時間を見計らって訪問していました。アポイント獲得率は極めて低かったことでしょう。担当者にコンタクトがとれて、MRが医師とのアポイントがとれる率も、15%以下だったでしょう。なぜなら医師は外来診察時間にはMRと合っている時間などなかったからです。
しかし、私たちが創る「リモートMR」の仕組みは、医師から面会時間を、こうします、とMRに事前に知らせておくことができます。MRからみたらアポイントの成約率は、15%どころか、かぎりなく100%に近くなるはずです。医師も、外来診療の隙間時間を有効に活用するだけです。無駄な時間にはなりません。
アポイントが確実にとれ、具体的な新薬のプレゼンに進む率は向上することでしょう。MRの営業効率は飛躍的に伸びます。
1日約12件で、営業時間が7時間と考えると1時間に1.7件をこなせばMRの営業活動は伸びるはず。医師側の都合もあるでしょうから確実にできるかどうかは難しいとしても、理論的に1回の面会を20分にしておけば3回のチャンスがあります。そのうちある時間は1時間に1回、別の時間には1時間に2回面会ができれば、MRとしては1日約12件の面会はできるはずです。しかも、コロナ禍前のように物理的な移動手段も要りません。となると医師の「オンライン診察」の空き時間(スキマ時間)をぬって、MRが医師と「リモートMR」として「オンライン面会」ができる数というのは、飛躍的に伸びることが期待されるわけです。
MRが説明する内容は、5分程度にまとめた「マイクロラーニング動画」にして、いつでも再生できるようにしておいてもらえば十分です。面会の前に医師にみておいてもらうことも可能になります。すると、面会開始後の、その後の10分間は、その薬の「ベネフィット」を説明してくれるMRが喜ばれる時代になるでしょう。
4. 医師がもつ課題に対する解決策を事前にMRが用意しておく
私たちが制作過程中の「リモートMR」では、MRは営業する医師側が求めている課題や、それに対する解決策を事前にセッティングしておくことができます。図の前面にある薬のバナーを医師がクリックすると、その薬に対する課題がでてきて、それに対する解決策を、MRは画面共有機能などを利用して説明することが可能となります。その時、医師側が知りたい動画教材を見せてもらえれば、医師側は基礎知識を得てからMRに追加知識を質問できるので便利です。MRも、医師側の視点にたって、医師が患者に薬を処方するのに、どういう点が困っているかをしれるので市場調査にもなります。医師が事前に動画教材をみていれば「反転授業」のように、解らないところだけをMRに医師から質問するということもできます。
5.たくさんの選択肢から医師に選択してもらう
医師は興味がある薬と、そうでない薬があります。せっかくの面会の時間をさいて、興味がない薬のプレゼンをうけてもしかたがありません。ですから「リモートMR」では、医師に興味がある薬を、先に選んでもらって、医師からの質問をきいて、ヒアリングをして、それに合わせてMRがプレゼンするというスタイルを構築していきます。MRは、自社の製品を、それに絡めてプレゼンし解決する案を提案していきます。
1957年山形県生まれ。83年慶大医学部卒。東京都済生会中央病院で糖尿病治療を専門に研さんを積む。 その後、国立栄養研究所、日本医科大学老人病研究所(元客員教授)などを経て、現在はHDCアトラスクリニック(東京・千代田)の院長として診療にあたる。
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