ミュージシャンにとってはいい時代
「『魔法の絨毯』がTikTokでヒットした理由は、歌詞がキャッチーで、1度聴けば口ずさめることが大きいと思います。皆さんがTikTokでよく使ってくれている、『君が仮にどんな恋を重ねてさ/どんな人と笑い合ったか/ひとりで考えて/勝手に凹んで/眠れない夜を過ごしてさ』という部分は、ラップ調でメロディーも複雑なものではなく、覚えやすいんですよね。あと歌詞全体がそうなんですが、僕自身、亭主関白なタイプではないので、『一緒に歩んでいくカップル像』みたいなものを歌っている。それが、TikTok世代にハマったのかなと。
ただ、バズりを狙って曲の作り方を変えることはないです。流行を追いかけることは間違いではないけど、僕のスタイルではない。やりたいことを曲げずに来たからこそ『魔法の絨毯』があると思うので。専門学校時代も、アコギ1本の弾き語りは正直バカにされてました(笑)。だけど、僕はスタイルを変えなかった。流行やバズりにとらわれて曲を作ることは、これまでの自分を全否定することになると思うんです。……結果的にバズったらそれはうれしいですけどね(笑)。
今の音楽シーンを俯瞰(ふかん)することがあるんですが、ミュージシャンにとってはすごくいい時代だなと感じています。いい曲を歌っている人がちゃんと評価され、テレビで歌を披露できるようになってきていますからね。世間で今聴かれている曲が分かる『ストリーミングチャート』の存在や、SNSでリアルな評価が分かるようになってきていることも大きい。
僕自身の夢は、玉置浩二さんや尾崎豊さんのように世代を越えて生き続ける音楽を生み出すことです。なので、もっといろんな人に僕の曲を聴いてもらうためにも、『NHK紅白歌合戦』には出たいですね。あと憧れのステージである、『フジロック』にもアコギ1本で立ちたい。いや、アコギも弾かずにアカペラで歌ってもいいかも(笑)。それくらい自分の歌の力を信じています」
(ライター 新亜希子)
[日経エンタテインメント! 2021年9月号の記事を再構成]