日経ナショナル ジオグラフィック社

メキシコが世界の手本に

ヘビ毒による被害は、特にアフリカや南アジアの、医療機関へのアクセスが乏しい農村部に多い。

その数が世界最多のインドでは、年間5万8000人がヘビにかまれて命を落としている。その次に多いのがサハラ以南のアフリカで、年間3万人が死亡している。科学者たちは、人の移動が増えたことと、環境の変化や気候変動が相まって、人が毒を持つ生物に遭遇する機会が多くなっていると指摘する。

オホ・デ・アグア牧場のウマの血液から作られた抗ヘビ毒血清「イノサープ」。サハラ以南のアフリカで使用されている(PHOTOGRAPH BY MARA SANCHEZ RENERO)

フランスの毒物学者ジャン・フィリップ・チッポー氏は、発展途上国では毒ヘビ被害が多いにもかかわらず、抗毒血清へのアクセスが十分整備されていない状況が、悪循環を作り出していると指摘する。病院へ行っても抗毒血清が置いてなかったり、薬代が高すぎたりすると、人々はヘビにかまれても病院へ行かなくなる。すると需要が減って病院はますます備蓄を減らしてしまうという。

メキシコ政府は、研究と製造、全国的な教育プログラム、現代的な技術への投資、そして能力ある研究者へ潤沢な資金を投じるなど、公的・私的資源を集結させた大々的な取り組みで、この悪循環を断ち切ることに成功した。

オホ・デ・アグア牧場の飼育員たち。採血が行われる時は特に忙しくなる(PHOTOGRAPH BY MARA SANCHEZ RENERO)

メキシコの企業もまた、外国の最新の規制に従うことで競争力を維持している。薬品の有効性に関するフィードバックに基づいて改良にも取り組んでいると、ボイヤー氏は指摘する。こうした規制や改良の努力が、多くの途上国にとって障害になっているのも事実だ。

「課題はありますが、他の発展途上国でも同じような政策を導入することができれば、良い結果につながると思います」

(文 BRENT CRANE、写真 MARA SANCHEZ RENERO、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年4月20日付]