日経ナショナル ジオグラフィック社

命と健康の維持に役立つハチ

2021年12月、デルガド氏、エスピノーザ氏、写真家のアナ・エリサ・ソテロ氏の3人は、コルドバ氏の自宅を訪ね、蜂蜜を作る在来種6種を含む40個の巣の養蜂について、詳細に学んだ。

巣の中のハリナシミツバチの幼虫。この幼虫は正常に発育できなかったので、働きバチがすぐに取り除くはずだ(PHOTOGRAPH BY ANA ELISA SOTELO)

コルドバ氏は、ミツバチよりもハリナシミツバチの養蜂に力を入れる理由を話してくれた。

「在来種のハリナシミツバチは刺さないので、おとなしく扱いやすく、養蜂に向いています。ミツバチよりも蜂蜜の質が高く、もちろん、薬用効果も高いです。ミツバチと違って、在来種のハチは、体から分泌する蜜ろうと樹木から抽出した樹脂で、ハニーポットを作ります。サングレ・デ・グラード(ペルーで『龍の血』」を意味する植物)の樹液のように薬効がある樹脂も使います」。サングレ・デ・グラードの樹液は、傷口に塗って回復を促す薬として使用されている。

エスピノーザ氏は、この訪問でコルドバ氏から複数の蜂蜜のサンプルを入手したが、ペルーを再訪して、さらに多くのサンプルを集めるつもりだ。今後、多様な蜂蜜の化学成分と微生物構成を調査する計画で、「ハチ自体の微生物叢(びせいぶつそう、マイクロバイオーム)の調査にも関心があります」と語る。また、ハチが餌を集めるすべての植物を把握したいと考えている。

「ハリナシミツバチは、自然界の薬効成分を見極め、持ち帰って巣で処理し、微生物との関わりを選び、薬効のある蜂蜜や花粉団子(ビーポーレン)、プロポリス(ハチが作る樹脂状物質)を作ります。600種に及ぶハリナシミツバチの研究は、こうした習性を解明する無限のチャンスをもたらすでしょう」。ベネズエラにあるアンデス大学のハリナシミツバチ研究者、パトリシア・ビット氏は、このように話している。

巣から餌を探しに出ようとする働きバチ。ハリナシミツバチは、生息する森から採集されることが多いが、研究者たちは、持続可能な養蜂業を導入するよう促している(PHOTOGRAPH BY ANA ELISA SOTELO)

コルドバ氏や多くの養蜂家は、蜂蜜の一部を家庭で消費し、残りを商品として販売している。通常は、毎年20本の瓶詰め蜂蜜を自家用とし、30本を地元の市場に出す。

これは、森や森で暮らす人々の命と健康の維持にハチが役立っていることを示すほんの一例だと写真家のソテロ氏は言う。ビット氏も「私たちにわかっているのは、ハリナシミツバチがもたらす恩恵のごく一部だけです」と指摘している。

ルービック氏は、このハチの生化学上および薬理上の効果の研究が最重要課題と考えている。「ハリナシミツバチの蜂蜜が持つ薬効の仕組みについては、私たちが知らないことがまだとても多いのです」

(文 DOUGLAS MAIN、写真 ANA ELISA SOTELO、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年4月13日付]