中国人がカレーを作ったら……

そして、帰国後は「別の国のスパイス使いも学びたい」と、今度は東京・赤坂などに店を構える中国料理店「黒猫夜(くろねこよる)」の門をたたく。「色々な地方の料理があり、(中国料理店としては珍しく)お酒の種類が豊富だった」のが同店に引き付けられた理由。ダイズを発酵させた豆鼓(とうち)をはじめ、長い歴史の中で育まれてきた中国の発酵食材や料理、南部の雲南省独特のスパイスにも興味を引かれた。
「牧谿」は10席に満たない小さな店だ。「一人で切り盛りできること」を条件に東京23区内で店舗を探したという。市ヶ谷駅と九段下駅の間にある店で水野さんは、スパイスという“絵の具”を使って自由奔放に料理を生み出す。「ウーロン豚咖哩」は、「中国人がカレーを作ったら、どんな風になるだろう」と考えたもの。「お茶を使った料理を作りたかったんです。(お茶を飲む文化がある)アジアでは、お茶もハーブの一種かなと思って」と彼は言う。
画材が並ぶように、「牧谿」の厨房にはさまざまなスパイスが置かれている。インドや中国だけではない。「これ、すごく面白い香りがするんですよ」と水野さんが棚から出したのは、ペルーのトウガラシ。土のような香りがする。どんな味だろうと、これを使った「スモーク唐辛子トウチ海老炒」を頼んでみると、奥の深いコクがあった。
ペルー産に加えメキシコのトウガラシを香味野菜と共にペーストにしたものを用いているのだ。料理にはシナモンによる甘みもあり、「酸味もあるんですね」と聞くと、「酢を合わせているんです」と水野さん。幾重にも味わいが重なっていて、食べ進むほどに「あ、こんな味わいもあった」と発見する。そんな料理だ。

「ナマズ発酵ニラ炒飯(チャーハン)」という、インパクト満点の名前のメニューもあった。なぜナマズ? と素朴な疑問を投げると、「YouTube(ユーチューブ)でナマズの料理を見て、これを使った料理を作ってみたところおいしかったので、チャーハンにしてみたんです」と屈託がない。
「脂がのっていて、ちょっとクセのあるウナギという感じ」が水野さんのナマズ評。発酵ニラは、中国料理にヒントを得た手作りの調味料だ。インドにも発酵食材やニラを使った料理があり、そうしたイメージから料理ができあがった。